日経FinTechの編集長に就任して以降、まだ形の無い新媒体を立ち上げるため、毎日「FinTech」に明け暮れた2カ月間だった。実に様々な取材活動をしてきた。FinTechとは何か、FinTechの本質は何か。そしてなぜFinTechが今、突如として盛り上がっているのか。この間、取材を通じて自分なりに考えてきた。

 企業から届くプレスリリースには「FinTech」の文字がどこかしこと踊り、いただく電話の多くもまた「弊社もFinTech」というものが多かった。媒体名にFinTechを掲げる我々だが、創刊と同時にいま率直に何を思うかと聞かれれば、それは「危機感」しかない。

FinTechが「世間よし」になるために

 多くの人が既に記憶の彼方に押しやっているかもしれない。2007年、日本では米リンデン・ラボが運営する「Second Life(セカンドライフ)」という3D仮想空間サービスが突如として流行した。メディアが盛んにセカンドライフを取り上げ、呼応するように企業が次々とセカンドライフの世界に土地を購入し、そして一瞬にしてブームは過ぎ去った。

 一度、コラムでセカンドライフに対する批判的な記事を書いたことがある。企業にとってPR効果以外の効果は見込めず、そのPR効果すらも既に失われたという内容だ。企業サイドは盛り上がったが、肝心のユーザーがついて来なかったのだ。セカンドライフでビジネスをしていた人たち、一攫千金を狙う人たちから猛攻撃を受けた記憶がよみがえる。

 近江商人は「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三方よしこそが商売の哲学だと言った。売り手側の論理だけでなく、買い手も満足し、そして結果的に世間にも役立つことこそ、商売が長続きする秘訣ということを指している。