「プログラムには選ばれなかったんだよ。けど同じ業界の人たちに少しでも会えないかと思って来てみたんだ」――。「ここに何をしにきたのか」、という筆者の質問にロシア出身の若者はこう答えた。

 2016年1月下旬、香港の金融街から少し離れた場所にあるFinTechスタートアップ企業の創業支援(インキュベーション)施設で筆者は人を待っていた。「SuperCharger」という香港発のFinTechアクセラレータープログラムを主催するJanos Barberis氏とインタビューの約束をしていたからだ。

写真1●OptiacsのOleg Nikitin共同創業者兼CTO(最高技術責任者)
写真1●OptiacsのOleg Nikitin共同創業者兼CTO(最高技術責任者)
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 Barberis氏から少し遅れるという連絡が入った。そこで、同じく誰かを待っているらしい若者に声を掛けてみたわけだ。彼の名はOleg Nikitin氏。人工知能(AI)を活用したロボ・アドバイザーサービスを、ヘッジファンドなどに提供するスタートアップ企業Optiacsの共同創業者兼CTO(最高技術責任者)だ(写真1)。

写真2●「2016 FinTech Finals(FF16)」の様子
写真2●「2016 FinTech Finals(FF16)」の様子
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 そもそも彼と筆者が香港に来ていた目的は同じだった。前日まで香港で開催されていた、アジアのFinTechスタートアップ企業が一堂に会したピッチイベント「2016 FinTech Finals(FF16)」に参加するためだ(写真2)。しかもNikitin氏は、ファイナリストとしてピッチイベントに登壇していたらしく、筆者は彼のプレゼンを聞いていた(写真3)。

写真3●FF16で登壇すOptiacsのOleg Nikitin共同創業者兼CTO(最高技術責任者)
写真3●FF16で登壇すOptiacsのOleg Nikitin共同創業者兼CTO(最高技術責任者)
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 Nikitin氏は、「香港にはグローバル企業が集まっている。『SuperCharger』のプログラムは、大きな資金調達ができるものじゃない。けどネットワークを作るにはとても魅力的だったんだ」と話す。同氏が最終的なターゲットに見据えるのは米国市場だ。しかし、「米国ではAIの採用がかなり進んでいるのに比べ、香港はこれからだと聞いた。チャンスがありそうだね。FF16で知名度も高められたし、参加して良かったよ」。その日の夜にはロシアに帰国するというNikitin氏は、香港での収穫に満足しているように見えた。