日本郵政グループ、社会保障・税番号(マイナンバー)制度といった大型のシステム構築プロジェクトが相次ぎ、ITエンジニア不足が深刻になるとされる2015年に入り、2カ月が経過した。IT現場を回ったところ、既に人不足が顕著になっていた。どの現場でもチームのリーダークラスが口をそろえて「人が足りない」とこぼしている。

 厄介なことに、メンバーの不足を補おうとパートナー企業に応援を要請しても、それが難しくなっている。パートナーも人不足だからだ。実際、現場からは「パートナー企業に10人の応援を要請しても、最近は2~3人しか集まらないことがほとんど」といった話が出た。

 チームのリーダーが手を尽くし、必要な人数を確保できたときも、安心はできない。あるITチームのリーダーは、プロジェクトの途中でエース格二人をチームから応援に出さざるを得なくなったという。代わりに補充されたのは、実力が未知数の若手1人だけだった。そのリーダーは「(将棋の強力な駒である)飛車・角落ちになってしまったわけです」と当時の苦境を説明してくれた。

 その大変さに共感する一方で、ふと筆者は思った。人不足の深刻さが将棋で例えられているのであれば、逆に人不足の対策に将棋の勝負術を応用できないだろうか。将棋には、実力が高い人が低い相手と指す際に、自らの駒をあらかじめ取り除いて勝負する「駒落ち」と呼ばれるハンデ戦がある。そんな駒不足の状況において、実力が高い人が相手に勝つための勝負術があるはずだ。

 そこで、人不足対策に応用できそうな将棋の勝負術を、IT現場の事例と照らし合わせつつ探してみた。いささか強引ではあるが、ここでは三つ提示したい。(1)手抜く、(2)成り駒を増やす、(3)先受けする、である。

やらなくて済む方法を本気になって考える

 (1)の手抜くとは、相手に駒を取られそうなときなどに、それを放置して別の手を指すこと。手抜くという言葉は一般には聞こえが悪いかもしれない。しかし将棋に関しては「相手にしない間にもっと効果的な手を指す」という前向きな意味も持っている。

 実は、人不足を乗り越えたIT現場のリーダーたちの多くも、真っ先に手抜くことを考えていた。つまりプロジェクトのゴールにたどり着く上で、やった方がよいが、必須ではないタスクについて、「やらなくて済む方法はないか」「省力化できないか」を本気になって検討していた。