「固定電話から携帯電話への通話料が高く、携帯電話事業者ごとの差も大きい。この状況はいかがなものか」。2016年11月とやや前の話になるが、総務省の有識者会議でこのような指摘が出た。総務省によると、3分当たりの通話料(平日昼間、区域内)は、NTTドコモが60円、KDDI(au)が90円、ソフトバンクが120円。このような料金になっていることを多くのユーザーは知らない。改善を促すべきとする意見が相次いだ。

 残念ながら、通話料を直ちに見直せという話にはなっていない。通信事業者は料金についてユーザーに分かりやすく周知する義務があり、総務省は当面の取り組みとして、携帯電話事業者への意識喚起を図っていくとしている。ただ、固定電話発・携帯電話着の通話料の引き下げにつなげる道筋も同時に示しており、実現は時間の問題とみられる。以下では、この問題の興味深い背景を紹介しよう。

通話料を下げる動機がなく、競争が働かない

 一口に「固定電話から携帯電話への通話料」と言っても、誰が料金を設定しているかで変わってくる。冒頭に示したのは携帯電話事業者が設定した通話料。これとは別に、中継電話事業者が設定している通話料もある。NTT東日本であれば「0036」、NTT西日本であれば「0039」といった番号(00XY)を通話相手の携帯電話番号の前に付加することで適用されるものだ。両者の通話料を比べると、明らかに中継電話事業者のほうが安い。

加入電話発・携帯電話着の3分当たりの通話料(平日昼間、区域内、出所:総務省)。
加入電話発・携帯電話着の3分当たりの通話料(平日昼間、区域内、出所:総務省)。
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 中継電話事業者は通話料の設定権を得る代わりに、通話の中継に当たって発信元(今回の例では固定電話側)と着信先(同携帯電話側)の両方の事業者に接続料を支払っている。同様に携帯電話事業者も通話料の設定権を得る代わりに接続料を支払っているわけだが、その対象は発信元(同固定電話側)だけである。本来であれば、中継電話事業者よりも携帯電話事業者のほうが通話料が安くてしかるべきなのだ。

 さらに解せないのは、携帯電話大手3社で通話料に大きな開きがあること。NTTドコモを基準にすると、KDDIは1.5倍、ソフトバンクは2倍である。発信元(同固定電話側)に支払っている接続料の単価(2016年度の3分当たりの単価は加入者交換機接続で6.05円、中継交換機接続で7.33円)は同じなため、ここまで差が開くのは不思議でならない。

 結局、ユーザーは相手が通話料の高い携帯電話事業者と契約しているからといって、電話をかけるのをやめようとはならない。「着信側の携帯電話事業者に通話料を下げるインセンティブ(動機)はなく、競争が働く余地がないのが原因」という指摘が出ている。

 事の発端は、加入電話網(PSTN)のIP網への移行議論だった。NTTは、PSTNを構成する中継交換機や信号交換機が2025年ころに維持限界を迎えるため、既存のメタル回線を利用したまま、中継部分だけをIP網に切り替える方針を示している。移行先のIP網では、加入電話や公衆電話から携帯電話への通話時に用いる「柔軟課金機能」を実装しないとしたのだ。

NTT東西は移行先のIP網で「柔軟課金機能」(事業者毎料金設定機能)を実装しない方針を表明(出所:総務省)。
NTT東西は移行先のIP網で「柔軟課金機能」(事業者毎料金設定機能)を実装しない方針を表明(出所:総務省)。
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 柔軟課金機能とは、通話ごとに相手の携帯電話事業者と課金レート(単価)をやり取りする仕組みのこと。移行先のIP網(SIP)で課金レートをやり取りする仕組みの標準化や開発には、時間とコストがかかる。そもそも通話料の設定権が携帯電話事業者にあるから複雑な仕組みになっており、シンプルに発側(NTT東西)で通話料を設定できるようにしてほしいと求めた。これをきっかけに冒頭の話に発展した。