2カ月ほど前の2015年12月10日に厚生労働省は「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会 報告書」を取りまとめて公表した。

 報告書の全体像は記事「医療分野などにID導入、2020年の本格運用を目指す」に詳しいので、ここでは医療分野の番号の仕組みそのものに着目してみる。医療情報という機微な情報を扱うために、汎用的なマイナンバーそのものは使わないようにする一方で、マイナンバー制度で導入された情報連携などの仕組みを活用して分析・研究のための個人医療データの収集・蓄積なども実現できるようにする。

政府の研究会で4年近くも検討

 医療・介護分野の個人情報には、病歴や服薬履歴、健診結果など、本人と医療・介護従事者以外の第三者には知られたくない情報が含まれる。このため政府は、社会保障・税・災害対策に関わる行政事務を対象とするマイナンバー法とは別の個別法を整備することにして、検討を重ねてきた。

 2012年4月に政府・与党社会保障改革本部の下に置かれた「社会保障分野サブワーキンググループ」と「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」では、計9回の合同会合を重ね、同年9月に「医療等分野における情報の利活用と保護のための環境整備のあり方に関する報告書」を取りまとめた。

 その後、マイナンバー法の国会審議・成立(2013年5月)を挟んで、2014年5月からは厚生労働省の「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」(座長:金子郁容 慶応義塾大学政策・メディア研究科教授)で議論を再開。途中、約9カ月の中断期間もあったが、計10回の会合を経て報告書を取りまとめた。2012年4月から数えて4年近い年月をかけて、ようやく決着したことになる。

 議論がなかなか収束しなかった背景としては、並行して個人情報保護法の改正作業が進んでいたこともあるが、マイナンバーを利用した医療情報の連携について、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会が慎重な姿勢を崩さなかったことが大きい。患者のプライバシーを厳重に保護するとともに、医療・介護従事者が個人情報侵害の罪に問われるリスクを抑えたいというのが理由だった。

 また、2014年5月からの研究会では、情報連携を実現するための技術についても、情報連携の推進派と慎重派の間で議論がなかなかかみ合わない期間があった。12桁の数字列である「マイナンバー(個人番号)」、情報保有機関間で個人情報を連携させる際にマイナンバーの代わりにキーとして用いる数十桁の電磁的な記号文字列である「機関別符号」、マイナンバーカードのICチップに記録される公的個人認証サービスの電子証明書に関して、構成員の間で特性や違いに対する理解がばらついていたためである。

 最終的に研究会構成員の合意が得られたのは、各機関が保有する個人情報を連携させる際には、視認できるマイナンバーは利用しないで、視認できない電磁的な符号データである機関別符号や電子証明書を用いて人手を介さずにシステムだけで連携させることにしたからである。