大方の予想通り、米国のトランプ大統領は就任以降、世界を振り回し続けている。日本バッシングをしたかと思えば、安倍首相を手厚く歓待。日本企業の経営者も気が休まる暇がない。そんなトランプ大統領の政策で、世界のIT業界が俄然注目するのが、いま大問題となっている入国制限、そして就労ビザ制限だ。なぜならシリコンバレーが没落するかもしれない。もちろん、その没落は良いことだ。

 トランプ政権による特定7カ国からの入国制限の衝撃波は凄まじかった。米国内外から批判の声が巻き起こり、その入国制限令の差し止め訴訟では、連邦地方裁判所と連邦控訴裁判所で政権側が2連敗。トランプ大統領は連邦最高裁判所へ上訴するだけでなく、新たな大統領令も検討する意向で、今後どうなるかは予断を許さない。だが、一つだけ確実なことがある。

 それは米国のブランド価値が決定的に傷ついたということだ。トランプ大統領は、大統領選挙の時から「メキシコとの国境に壁を造る」「不法移民を強制送還せよ」と主張し、大統領に就任した今、それを政策化しようとしている。そこに今回の入国制限令だ。「移民の国アメリカ」のアイデンティティが揺らぎ、「フリーダムとドリームの国アメリカ」のブランド価値が下落しつつある。

 これは、世界中から優秀な人材をバキュームすることで、繁栄を謳歌してきた米国のIT産業、特にシリコンバレーのIT企業やベンチャーキャピタルにとっては由々しき事態だ。もちろん、入国を阻止されるリスクのある人は限られているが、渡米を夢見ている世界中の野心に満ちた若者や、既に米国のIT企業などで働く優秀な技術者らに与える心理的な悪影響は絶大だ。

 彼らは「フリーダムとドリームの国アメリカ」に憧れ、自分の能力を試し一旗揚げようとやってくるのだ。そして「より開かれ、つながった世界を創る」といったIT企業が掲げる理念に共鳴して働く。彼らに大きな失望を与えるとどうなるか。アップルやグーグル、フェイスブックなど127社が「大統領令は米企業が世界で最も優秀な人材を採用し、引き留めるのを難しくする」との意見書を連邦控訴裁に出したのは当然のことなのだ。