名前は大事である。

 記者は最近この思いを改めて強くした。取材先で名前に関する質問というか問いかけを受けたからだ。

 野村総合研究所の谷山智彦経営革新コンサルティング部上級研究員に取材したときのこと。谷山氏は不動産や公共分野のアナリストを務める。

 「何かいい名前はないでしょうか」。谷山氏は、記者にこう尋ねた。取材のテーマは不動産取引にITやデジタル技術を組み合わせた新サービスの動向。こうした分野の企業やサービスそのものを一言でなんと言うべきか、尋ねられたのだった。

 谷山氏の質問の背景にあるのは、ITやデジタル技術を活用して生み出す新たな金融サービス、いわゆるFinTech(フィンテック)の存在だ。FinTechの分野では新興企業を中心に、様々なサービスが興りつつある(関連記事:デジタルガレージがブロックチェーン関連企業に出資、日本でFinTechサービス開発へメタップス、金融機関と新サービスを創出するプラットフォームを公開)。その勢いはいまや大手金融機関も無視できなくなった(関連記事:三菱UFJがFinTechの新組織、銀行組織と一線を画すチームで先進行に伍する体制に)。

 ここ2年ほどでFinTechは大きな潮流になった。ビットコインやその基盤技術であるブロックチェーンをはじめとした技術面の革新、顕在化していなかった需要をビジネスチャンスととらえた新興企業の台頭、金融という産業が持つもともとの裾野の広さなど、様々な理由が複合した結果だろう。

 そしてFinTechの勃興には、名前の果たした役割も少なくないはず。記者はこう考えている。バズワードなどと冷やかされたり、類似商法や便乗商法が登場したりするかもしれない。「ここからここまで」といった定義も、人によっては異なるだろう。それでも、金融とITを掛け合わせた新たなサービスが相次いで登場している状況を一言で表すことで、この分野で新しい動きが起きていることを広く印象付けた。

不動産×ITで業界に新風

 特定の業界とITやデジタル技術との掛け算で、これまでにないサービスや事業を生み出す。それによって、業界特有の課題や非効率な慣習を打破する。こんな動きが起きているのは、金融分野に限らない。最たる例が不動産分野である。

 ヤフーとソニー不動産は2015年11月、「おうちダイレクト」という新サービスを発表した。特徴はマンションの売り主が、不動産会社に頼らず自分で物件を売り出せること。AI(人工知能)技術を元にマンションの売値を高い精度で推定する機能を備え、売り主が物件を自分で値付けする際の参考にできる。ITの活用で無駄を減らすなどの工夫を凝らし、売却価格の3%+6万円かかることが多い売却仲介手数料をゼロにした。