小さい頃、特に男の子であれば秘密基地に見立てた遊び場を持っていたのではないだろうか。記者は廃トラックの運転席や公園の洞穴がそうだった。
女の子でいえばイマジネーションを膨らます「ごっこ遊び」がそうだろうか。親戚のお姉さんたちがマットレスで組み立てた「馬車」に乗り、夏休みの午後にどこか遠い国を延々と旅していたのを思い出す。
秘密基地やごっこ遊びがワクワクするのは、見えない何かを手にできるからだ。手元の木の棒はヒーローの剣に変わり、錆びたトラックの運転席は宇宙船の操縦席になった。
2018年1月、何十年かの時を経て、秘密基地に来たようなワクワク感を覚えた。名古屋に本社を構える中部電力に取材した時のことだ。名古屋市営地下鉄の栄駅からほど近い本社ビルで目的の取材を終えた後、「せっかく来たのだから」と誘われて、同社のオープンイノベーションセンターを見学させてもらうことにした。
てっきり同ビル内にセンターの一室があるかと思いきや、「こちらです」と案内されたのは本社ビルから数分歩いた別のビル。「アイデアを創出するにはオフィスを離れたほうがいいんです」。案内してくれた同社情報システム部技術経営戦略担当の戸本祐太郎主任はにこやかにそう言った。
秘密基地は本社ビルの外に
どんと構えた本社ビルのような趣ではなく、ちょっと洒落たビル。入り口に大仰な看板などはなく、中電のセンターが入っているとは分からない。隠された感じにワクワクしてきた。
エレベーターで上階に着くと、ベンチャー企業でよく見るようなスペースに通された。部屋はさほど広くはないが、壁一面のホワイトボードとレンガの壁に囲まれ、三角形の大きなテーブルをピンスポットの照明が照らしている。先ほどまで取材していた中電本社の会議室とは打って変わった雰囲気に面食らう。
出迎えてくれた中電の野村武執行役員情報システム部長は「ブルックリンのカフェをイメージしている」と説明してくれた。記者はニューヨークのブルックリンに行ったことがなく、カフェもあまり行かないので生返事しかできなかったが、「お茶を飲みながら気楽な雰囲気でアイデアを創出するための部屋だ」と同部燃料・火力システムグループの内田忠グループ長がフォローしてくれた。
「電力業界も環境変化によって、エネルギーだけでなく、エネルギーを越えたサービスを提供しなくてはいけない。自分たちだけで考えていてもなかなか良いアイデアが出ない」と内田グループ長は続ける。そこで2017年6月からベンチャー企業や大学からアイデアをもらって形にしていくオープンイノベーションに取り組み始めたのだという。
中電は研究開発施設も持つが、オープンイノベーションに特化した施設として、この「COLab(コラボ)」を開所。COLabとはChuden Group Open Innovation Laboratoryの略だという。開所と同時にWebサイトもオープンした。