少し前のことになるが、日本通信がNTTドコモを相手取り、パケット接続料の算定式の変更などを求めていた裁判が決着した。東京地裁は2015年11月27日、日本通信の請求を棄却。日本通信は控訴せず、NTTドコモの全面勝訴で終わった。

 パケット接続料とは、MVNO(仮想移動体通信事業者)が携帯電話事業者から設備を借りる際に支払う料金のこと。NTTドコモが勝訴したことで「格安SIM」に代表されるMVNOの料金が高くなるのではないかと心配するかもしれないが、直接的な影響はない。今回の判決を踏まえ、接続料の算定方法が変わるわけではないからだ。足元ではスマートフォンの普及による通信量拡大で単価の下落(接続料の低廉化)が進んでおり、当面はこの傾向が続くとみられる。

 では、なぜ裁判の話を取り上げるかというと、日本通信が興味深い判断を下したからだ。裁判はNTTドコモの勝訴で終わったが、総務省の新方針により、接続料の一層の低廉化が期待できるという。以下では、3年半以上に及ぶ異例の長さとなった裁判の内容を振り返るとともに、「一層の低廉化」の実現性を吟味したい。

算定式を一方的に変更されてはかなわない

 問題の発端は、2010年度適用のパケット接続料である。日本通信は2007年の総務大臣裁定を経て、NTTドコモから「原価+適正利潤」の接続料で設備を借りる権利を得た。日本通信によると、2008年度と2009年度は両社で「合意」した算定式に基づいて接続料を支払ってきたが、NTTドコモが2010年度から接続料が高くなるような算定式に一方的に変えてきたとのことだった(関連記事:日本通信が接続料算定式巡りドコモを提訴、「MVNOビジネスの発展を阻害する」)。

写真1●NTTドコモへの訴訟を発表した日本通信の説明会の様子(2012年4月)。
写真1●NTTドコモへの訴訟を発表した日本通信の説明会の様子(2012年4月)。
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 テレコムインサイドの調べによると、NTTドコモが2010年度に実施した変更は、「SIMカード発行費用の完全有償化」と「直課コストの追加」である。前者はそれまで、3万回線まで無償だったが、有償(回線当たり1800円)に切り替えた。後者の直課コストは相互接続に関連する人件費や物件費、システム費などに当たり、2010年度から新たに加算された。2010年度の直課コストは10Mビット/秒当たり月110万円だった。

 その後、2011年度には「総帯域幅」の定義も変えようとした。接続料は設備費用をトラフィック(通信量)で割って算出しており、帯域幅課金では最低契約帯域である10Mビット/秒が「総帯域幅」に占める割合で単価が決まる。2009年度適用の接続料を例に挙げると、大まかに「7610億円(設備費用)×0.015%(総帯域幅に占める割合)÷12カ月」である。総帯域幅の定義次第で接続料は変わり、NTTドコモは総帯域幅が小さくなる(=接続料が高くなる)ような解釈を導入しようとした。

 総帯域幅の解釈としては主に、(1)各通信設備の伝送容量の総量(基地局側帯域と呼ぶ)と(2)インターネット接続などに利用するパケット接続装置の伝送容量の総量(ISP側帯域と呼ぶ)がある。ただ、両社の主張が折り合わず、(3)基地局側帯域とISP側帯域の平均に決まった経緯がある(関連記事:紛争が絶えない携帯電話の接続料問題)。再び2009年度適用の接続料を例に挙げると、「0.005%(基地局側帯域の占有率)+0.025%(ISP側帯域の占有率)÷2=0.015%」となっている。