工場内や倉庫内、店舗内のレイアウトに「改善の余地はない」と考えている経営者やIT担当者には、ぜひ動線分析の実施を検討してみてほしい。気づいていなかった事実が必ず、浮き彫りなるからだ。

わずか1カ月分でも多くの気付きを得た

 農業機械大手であるクボタは、田植え機やコンバインを製造する宇都宮工場内で、2014年10月から動線分析を開始した。対象となったのは、工場内で部品を運ぶ搬送車の動きだ。搬送車は、工場内の一角に設けた部品の保管場所から、工場内にいくつかある生産ラインまで、そのラインで必要とする部品を供給する役割を担っている。10月の1カ月間は、フォークリフト3台とエレカ(小型電気自動車)1台の動きを対象にしている。

 宇都宮工場内での部品の流れは、次のようになっている。メーカーから納品された部品は、いったん「大物部品の保管場所」に保管される。大物部品は、ここからフォークリフトを使って生産ラインに沿って設けてある「在庫置き場」まで運んでいる。小物部品については、いったん「小物部品の保管場所」に移した後、そこからエレカを使って生産ライン脇の「在庫置き場」まで運ぶ。

 このように、部品がメーカーからトラックで運び込まれてから生産ラインに供給するまでの流れは、きれいに管理されているように見える。「けれども、本当に無駄なく流れているのかどうかは、実際のところ誰にも分らない。もしかしたら、生産ラインの最初の工程で利用する部品が生産ラインの最終工程あたりの在庫置き場に保管されていて、ムダな歩行距離が発生している可能性も高い」と、取り組みを主導する宇都宮工場生産管理課の山本康之氏は話す。実態を正確に把握して改善につなげるため、動線分析の実施に踏み切ったわけだ。

図●クボタの宇都宮工場で実施した動線分析の結果と主な気づき
図●クボタの宇都宮工場で実施した動線分析の結果と主な気づき
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 記者が、日経情報ストラテジー3月号の特集記事「動線分析最前線」の取材で同工場を訪れたのは、昨年11月末のことだった。動線分析の開始から2カ月が経過したころで、山本氏は10月に収集した1カ月分の動線データを、分析し終えたばかりだった。たった1カ月分だが、それでも山本氏は「多くの気づきを得られた」と話す()。工場内のレイアウト図に上書きされた搬送車の動線データをパソコンの画面に映し出しながら、動線が意味する状態と、そこから得られた気づきについて、詳細に語ってくれた。