「量子コンピュータ」とは何を指す言葉なのか? 定義を巡る議論が盛り上がっている。

 きっかけは、NTTや国立情報学研究所(NII)などが2017年11月20日に公表したプレスリリースだ。光パルスの位相を量子ビットとする新しい計算機「量子ニューラルネットワーク(QNN)」を、誰でも試せるようクラウドで公開した。

 QNNの研究を推進する内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の山本喜久プログラム・マネージャーは、リリース中でQNNを「世界最大規模の量子コンピュータ」と呼んだ。一般紙も「初の国産量子コンピュータ」と大々的に取り上げた。

 これに対して「QNNは量子コンピュータと言えるのか」と研究者からTwitterなどで疑義が呈された(Togetter)。毎日新聞日経サイエンスも「QNNは量子コンピュータではない」との研究者の声を紹介した。

 新しい計算機の「量子性」、つまり演算にどこまで量子力学的な効果が寄与しているかの議論は、マシンの将来性を図る上で極めて重要である。その点に全く異論はない。ただ、量子性の議論を「●●マシンは量子コンピュータか否か」という二元論に落とし込もうとする風潮は危険ではないか、と考えている。

 そもそも量子コンピュータという言葉は、古くから定義や社会的意義があいまいな、一種のバズワードだった。日本の研究者も定義のあいまいさを利用し、光パルス制御、スピン制御、量子テレポーテーションといった様々な量子系の研究について「量子コンピュータ実現への一歩」と研究の社会的な意義を強調していた。

 その研究者が今になって「量子コンピュータか否か」と厳密な定義づけを求めることに、ひねくれ者の科学技術記者を自称する筆者は、もやもやするものを感じてしまうのだ。