「マイナンバーがSIの限界を鮮明にさせた」。2016年1月から断続的に発生したマイナンバーカードの管理システムの障害事故だ。地方公共団体はカード交付業務に大きな支障をきたし、マイナンバーの出鼻を挫いた格好だ。

 カードを発行する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)のホームページによると、障害の原因はカード管理システムの中継サーバーを担当した事業者による事前の適合性評価が、十分に行われなかったことにあるという。発注先のコンソーシアムを構成するNTTコミュニケーションズとNTTデータ、富士通、NEC、日立製作所の5社の連携不足により、原因特定に時間もかかったという。

マイナンバートラブルで賠償金も

 同機構は「コンソーシアムの責任は重大」だとし、損害賠償もじさない姿勢をみせる。複数の報道によると、コンソーシアムに最大で発注金額の約69億円の損害賠償を求めることを検討しているという。

 この障害事故は、大手IT企業を頂点に大量の技術者を投入する労働集約型のSI、つまり請負の受託開発の難しさを示している。過去に経験のないシステム構築をユーザーの要求通りに作り上げても、想定外の問題が発生する。完成の姿がはっきりと見えていないことを、発注側も受注側も理解・納得し、開発に一体となって取り組むことが求められる。

 日立製作所時代に現JRグループの座席予約システム「マルス」の開発に携わった名内泰蔵氏に、かつて取材した際、大規模システム構築の課題をこう語っていた。「『鹿を作ってくれ』とユーザーがIT企業に依頼したら、鹿を見たことがない技術者は馬を想像する。そこでユーザーが『首を長くして』『斑点をつけてくれ』などと要求すると、出来上がったのは麒麟(キリン)」。

 笑い話だが、苦い教訓を含んでいる。鹿が2頭になり、旁と偏がつく。つまり、作り上げる時間とコストが、2~4倍になったということを暗示しているのだ。