日本オラクルでクラウドやデータベースなどを担当した元副社長の三澤智光氏が7月1日、日本IBMのクラウド事業を統括する取締役専務執行役員に就いた。同社が外部から取締役専務執行役員を招いたのは、現社長のポール与那嶺氏以来のこと。その期待の大きさがわかる。

 三澤氏は、7月初旬の就任会見で「日本IBMのクラウド事業の余地は大きい」と語り、IBMユーザーにクラウドを売り込めるチャンスがいくらでもあるとの見解を示した。今回は、日本IBMが三澤氏を招聘した理由を探ってみたい。

 まず思いつくのは、クラウド市場開拓の加速だ。米IBMが買収した米ソフトレイヤーのクラウドサービスの販売に、約2年前から取り組んでいるものの、先行するアマゾン ウェブ サービス(AWS)やマイクロソフトなど有力クラウドベンダーに大きく引き離されている。信頼性などの観点から、クラウドの導入に慎重なメインフレームユーザーが少なくないことも影響しているだろう。

クラウドをうまく売ることができるか

 実は、メインフレームなど大型システムの営業に、クラウドをうまく売らせるのは容易なことではない。伝統的な製品と革新的なクラウドの販売方法は異なるからだ。クラウドの評価がいまだに確立されてないことも、足を引っ張っているだろう。

 17期連続の減収の米IBMは、クラウドをはじめとする新規事業を成長に転じる戦略分野に位置付けて、経営資源を集中的に振り向けている。その結果、戦略分野の売り上げは2015年度に全体の35%になった。クラウドの売り上げも、100億ドルを超えている。

 その一方、IBMグループ総売り上げの約10%を占める日本IBMは、売上高は9018億円(2015年度、前年度2.3%増)と回復した。だが、クラウドなどの戦略分野を大きく伸ばせたのだろうか。

 重要なのは、戦略分野に対応する人材を育成・確保できるかだ。また、クラウド事業の責任者が変わってマーケティング施策などが変われば、その間にIBMユーザーは他社クラウドを導入してしまうかもしれない。そんな心配もあるだろう。