大手IT企業が顧客企業に、「攻めのIT投資を増やせ」と必死に訴えている。経済産業省と東京証券取引所は、それを後押しするかのように「攻めのIT経営銘柄」を設けて、「攻めのIT投資」を増やす企業を称賛する。投資先を運用・保守から業績拡大、構造改革へとシフトさせる狙いは分かる。だが、だが、IT企業の技術力と想像力の乏しさのせいで効果のないむだなIT投資になる危うさがある。

 IT企業の主張は、顧客企業の経営者のIT活用に対する意識改革にある。業界団体の電子情報技術産業協会(JEITA)は、その実態を明らかにするデータを作成する。まず2013年10月に、IT投資を「極めて重要」とする経営者が日本の約16%に対して、米国は約75%もいるとの調査結果を公表。次いで15年2月に、国内に「攻めのIT投資」に「極めて積極的」な企業が約14%、「積極的」な企業が28%との調査結果を報告する。しかも、「攻めのIT投資」を展開する企業の半数以上が売り上げ、利益ともに増加しているという。

 調査結果はその通りなのだろうが、「攻めのIT投資」と業績の因果関係はあるのだろうか。素晴らしい商品を発売し、業績が向上したので、IT投資を増やしただけかもしれない。更改期だったので、IT投資が一時的に増えてしまった企業もあるだろう。「攻めのIT経営銘柄」に、建機のコマツのような新しいビジネスを創出したり、生産性向上にITを駆使したりする企業が何社あるのだろう。

 根本的な問題は、経営者のIT投資軽視ではなく、IT企業が今の収益構造を守ろうとしていることにあるように思える。典型例は、初期投資や運用費を大幅に削減するパブリッククラウドの活用を提案しないこと。顧客企業にそのメリットを積極的に説明しないのは、IT企業の大きな収益源であるシステム開発費用が激減し、ハードやソフト販売も大打撃を受けるからだ。同様に、ライセンス料を大きく減らせるオープンソース・ソフト(OSS)の提案にも、消極的に思える。