先日、高層ビルのオフィスでモバイルシフト(モバイル回線主体で企業ネットワークを構築すること)について、X社の担当者と意見交換をした。4月に入ってから携帯電話がつながりにくくなり、NTTドコモが急きょ対策を打ったという。今回は多数のユーザーが集中する大規模オフィスでの電波不足の対策について述べる。

 X社ではスマートフォンを1000台近く導入し、NTTドコモのFMC(Fixed Mobile Convergence)サービスである「オフィスリンク」を使っている。このサービスを導入すると、携帯端末同士、あるいは携帯端末と固定電話機の間で、内線番号を使った通話ができる。

 X社が入居している高層ビルは築後10年以上経過し、人口密度が高まっていた。さらに4月になって新入社員が加わり、人が増えたせいか通信障害が多発するようになった。電話がつながり難くなり、主にLTEを使っているデータ通信はメールの送受信もできないレベルだったというから重症だ。

 もともとNTTドコモは電波対策としてビル内に多数の基地局を設置していたのだが、それでも足りなくなったらしい。話を伺った方はNTTドコモに「フェムトセルをたくさん持ってくればいいんじゃないか」と言ったそうだ。理由は定かではないが、その案は採用されなかった。結局、ビルの周囲にアンテナを設置してそこからビルに対して電波を吹く、という方法で解決したという。

新築中層ビルの電波対策に10か月

 このエピソードを筆者が主宰する情報化研究会のホームページに書いたところ、会員のAさんからオフィスビルの電波障害についてより詳細な情報提供があった。Aさんの会社は2016年春、都心に中層オフィスビルを新築オープンした。約300人の社員が勤務している。社員はスマートフォンまたはフィーチャーフォン(従来の携帯電話機)を会社から貸与されており、X社と同じNTTドコモのオフィスリンクを使っている。

 ところが、入居当初から電波障害が多発し、電話が切れる、雑音が入る、音声が二重に聞こえる、といったトラブルが発生した。ちなみにパソコンは無線LANに収容しており携帯網を使っていない。

 NTTドコモはビル周辺の基地局を調整することで解決を図ったが、障害は解決されなかった。結局、ビル内にアンテナ(基地局)を設置してトラブルを解消した(図1)。入居から約10カ月が経過した、2017年春のことだった。

図1●アンテナ設置によるオフィスビルの電波対策
図1●アンテナ設置によるオフィスビルの電波対策
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 図1のPD盤にはNTTドコモの携帯網から回線が引き込まれている。基地局設備は主装置、子機、アンテナから構成されており、主装置からEPS内の光分岐装置を経由してケーブルが各フロアの天井裏に配線され、子機とアンテナ(写真1)が対で設置されている。天井裏への隠ぺい設置なのでユーザーからは見えない。

写真1●子機(左)とアンテナ(右)
写真1●子機(左)とアンテナ(右)
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 ちなみに電話は3GでVoLTE(Voice over LTE)は使っていない。ビル内に設置した基地局はXi(LTE)とFOMA(3G)の両方を契約しており、LTEによるパケット通信が利用できる。もし、NTTドコモ系のMVNOのSIMを使えば快適なデータ通信ができるはずである。もっとも、道義的にそんな使い方はされないだろう。

 この事例から、電波状況が良いと期待できる都心でも多数のユーザーがいるオフィスでは電波障害が起こる、大きな帯域幅を必要としない電話でもトラブルになる、携帯電話事業者に根本的な対策を打ってもらうには時間がかかる、といったことが分かる。

 基地局の設置は無償である。スマートフォンなどの料金は相対契約でかなり安くなっている。お金のかかる対策を大手携帯事業者であっても簡単にできるはずがない。