IoT(インターネット・オブ・シングス)やモバイル関連のITベンチャーであるオプティムは2017年12月26日、ドローンやIoT、人工知能(AI)を駆使した低農薬作物の栽培に参入したい農家向けの支援プログラムを発表した。参加した農家にドローンなどのシステム一式を無償で提供し、収穫物はオプティムが全て市場価格を参考に買い取る。

 オプティムは買い取った農作物を独自にブランディングするなどして付加価値を打ち出して販売する。販売した作物の収益はオプティムと農家、協業する流通事業者の3社で分配する。農家はリスクなしで低農薬農法に参入できるうえに、販売した作物の収益の一部も手にできる。オプティムはこのプログラムで農業ビジネスに本格参入する。

 オプティムの菅谷俊二社長は「従来のIT農業はベンダーが高額なシステムを農家に販売するだけで終わっていた。この状況を打破するため、我々がリスクを取って儲かる農業を支援し、収益を分配するビジネスモデルを確立すべきだと判断した」と、システム販売にとどまらず自ら農業ビジネスに参入する意義を説明した。

 会見ではこのプログラムの前提になる、2017年内に佐賀県内で実証実験として取り組んだ大豆の低農薬農法の成果を発表した。ドローンから撮影した大豆畑の画像をAIが解析し虫の付いた場所を自動判定。農薬を圃場全体でなくドローンからピンポイントで散布することで、農薬散布量を10分の1以下に減らした。佐賀大学農学部の監修の下で検査したところ、残留農薬は未検出の水準に抑制できた。ドローンを使ったピンポイント農薬散布の農法を確立したのは世界初という。

オプティムが開発した低農薬農法向けのドローンや陸上走行型ロボットなどの機器。
オプティムが開発した低農薬農法向けのドローンや陸上走行型ロボットなどの機器。
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 収穫した大豆は枝豆用として、福岡市内のデパートで「スマートえだまめ」のブランドで、極めて低農薬であることを訴求して販売した。「丹波の黒大豆」などのブランドの価格を参考に、100グラム200円と通常の枝豆の3倍の価格で販売したところ、12月20~21日の2日で完売し、消費者から好評だったという。

 オプティムはこの成果を基に「スマートえだまめ」など低農薬農法の作物をブランド化し、全国で栽培する農家を募集し、高めでも安心なことを訴求する「スマート」ブランドの農作物として販売事業に乗り出す。

オプティムの菅谷社長(右端)とIT農業の実証実験を共同実施した農業法人の社長ら。
オプティムの菅谷社長(右端)とIT農業の実証実験を共同実施した農業法人の社長ら。
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 「スマートえだまめ」や「スマートだいず」のブランドを使う大豆については、2018年度に栽培する農家や農業法人を12月26日から2018年3月31日まで同社のWebサイトで募集する。1ヘクタール以上の大豆栽培ができる、ドローンを自ら操作できる、栽培過程や土壌検査、残留農薬の調査に協力できるなどが条件で、まずは合計作付面積160ヘクタールまで参加者を募る。想定する生産量は275トンで、これは日本での大豆の大産地の一つである九州北部の生産量の1%に相当するという。

 同様に、2018年度に低農薬の「スマート米」を栽培する農家を2018年3月31日まで募集する。5ヘクタール以上の栽培ができるほかは大豆と同様の条件で、システム一式を無償で貸し出す、収穫を全てオプティムが買い取ることは大豆と同じ。2017年内に佐賀県東与賀市で低農薬農法を実証実験で導入して成果を得ており、同じくブランド米として販売できると判断した。

 冬野菜については、まず実証実験の参加者を2018年1月31日まで募集する。たまねぎやキャベツ、ほうれんそう、ブロッコリーなどの作物をオプティムが提供する低農薬農法で栽培し、実際に残留農薬が極めて少ない「スマートアグリフード(冬野菜)」として栽培できるか、消費者から受け入れられるかを検証する。成果が上がれば2018年後半からの冬野菜栽培でも低農薬農法を導入する農家を本格募集する考えだ。

 オプティムはこうした低農薬農法やIoTを活用した農業に関心を持つ農家を組織化する「スマート農業アライアンス」も立ち上げると発表した。情報提供やノウハウ共有のほか、食材を仕入れたい企業や融資したい金融機関とのマッチングを仲介したり、大学や自治体との連携を推進したりする狙いだ。農家や農業法人の参加費は無料。