KDDI(au)と小湊鉄道は2017年12月12日、路線バスの運転士が脇見運転や居眠りなどの危険運転をするのを防ぐIoT(インターネット・オブ・シングズ)システムの実証実験を共同で実施したと発表した。運転席に設置したカメラで撮影した運転士の画像を解析するもので、運転士がセンサー類を装着する必要がないのが特徴。小湊鉄道社内の安全教育に役立てる。

小湊鉄道の路線バスの運転席(左)付近にカメラを設置した(右)
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小湊鉄道の路線バスの運転席(左)付近にカメラを設置した(右)
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小湊鉄道の路線バスの運転席(左)付近にカメラを設置した(右)

 実証実験は小湊鉄道の路線バス1台を使い、2017年5月14日~31日のうち実働ベースで13日間、バス運転士10人を対象に実施した。運転士の表情を撮影するカメラ、デジタルタコグラフ、モバイルルーターとデジタルタコグラフを遠隔制御するRaspberry Piを運転席付近に設置。5秒おきに運転士の画像を撮影し、その画像をモバイルルーターからauのLTE回線を経由してKDDIのクラウド画像解析サーバーに伝送。

バス車内に設置した(左から)モバイルルーター、Raspberry Pi、デジタルタコグラフ
バス車内に設置した(左から)モバイルルーター、Raspberry Pi、デジタルタコグラフ
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 サーバーで運転者の表情や姿勢を解析し、(1)顔の位置があらかじめ定められた四角形の枠からはみ出していないか(2)顔の向きが正面から一定以上の角度ずれていないか(3)驚きや怒りなど通常と異なる表情をしていないか――を確認する。居眠り運転や脇見運転、ながらスマホなどで(1)(2)に2画像以上連続で該当したり、(3)に該当する表情をしていたりした場合、危険運転の予兆である「ヒヤリハット」だと判断。クラウドサーバーからRaspberry Piを経由してデジタルタコグラフに命令を送り、CANから取得したバスの運行速度とGPSから取得した現在地をクラウドサーバーに伝送させる。

画像解析の結果。顔の位置が枠から下にはみ出していることと、顔の向きがでないことを検知している
画像解析の結果。顔の位置が枠から下にはみ出していることと、顔の向きがでないことを検知している
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 実証実験では時速10キロメートル以上で走行中のヒヤリハットのみサーバーに蓄積している。バス部門の管理職はこうして蓄積されたヒヤリハットのデータを確認し、運転士に対してどのような状況だったかをヒアリングする。併せて、運転士や場所などを基にヒヤリハットがどのような状況で起こりやすいかという傾向を確認し、社内の安全教育の教材などとして使う。

実証実験の構成図
実証実験の構成図
(出所:KDDI)
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 小湊鉄道のバス部門では2016年9月、有料道路を走行中の高速バスで運転士が脳梗塞による意識障害に見舞われ事故が発生。これを教訓に「セーフティーファースト宣言」を出してハード・ソフトの両面で対策に取り組んでいると説明。今回の実証実験はソフト面の対策の一環で、ヒヤリハットの具体的な事例を運転士たちに共有することで事故予防につなげる。

 小湊鉄道 バス部の小杉直次長は「ヒヤリハットにつながる可能性のある情報を収集し共有するのが事故防止の一番ポピュラーな方法だが、従来実施していた運転士への聞き取りでは、具体的なヒヤリハット事例をほとんど収集できていなかった。ヒヤリハットの状況を映像を使って教育に生かせるのは役立つ」と今回のシステムの意義を強調した。

実証実験の結果
実証実験の結果
(出所:小湊鉄道)
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 KDDIは今回のシステムを他の複数のバス事業者にも紹介している。「1台あたりの導入コストが数千円程度ならば導入できると複数のバス事業者から言われているほか、今後の通信コストの下落を踏まえれば今回実装した以上の付加価値を追加しても採算が取れるだろう。バス事業者で事故が起きた場合のコストを考えれば、このシステムでそうしたリスクをなくす効果は大きく、事業性があると考えている」(ビジネスIoT推進本部 ビジネスIoT企画部の原田圭悟部長)とし、今後の商用化に前向きな姿勢を示した。