日本IBMは2017年11月16日、同社のAI(人工知能)である「IBM Watson」に関して報道機関向け技術動向説明会を開催した。Watsonソリューション担当の元木剛氏は「Watsonは顧客の業務に深く踏み込んで、一緒にアプリケーションを作り込んでいくビジネス向けAI」とし、米グーグルなどのAIとの違いを強調した。

日本IBMの元木剛Watsonソリューション担当
日本IBMの元木剛Watsonソリューション担当
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 Watsonは本来、大量の文献データなどから独自のデータベースを構築し、質問に答えるといった「照会応答(Engagement)」を得意とするAIだ。元木氏も「自動運転などを目的として開発したものではない」と語る。ユーザー利用が進む中で照会応答に加え、データの隠れた価値や傾向を解明する「探検・発見(Discovery)」と、データから最適な行動を促すといった「意思決定支援(Decision)」に特化したアプリケーションや開発基盤も提供している。

 元木氏はWatsonの特徴的な設計思想として、パブリックデータと顧客固有のデータを組み合わせた利用環境を用意する点を挙げる。「ニュースや法規制などのオープンなデータだけでなく、過去の購買契約書や企業内ポリシー文書といった顧客固有のデータを学習させることで、各顧客の業務に特化したAIアプリケーションを構築できる」(同氏)と訴える。

パブリックデータを基にした共有環境に加え、顧客固有のAI環境を提供する
パブリックデータを基にした共有環境に加え、顧客固有のAI環境を提供する
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 顧客固有のデータや利用環境に対して「Watsonの精度改善などの目的で当社が使用したり、横展開したりすることはない」(元木氏)。ただ、医療関係や製造業など業界標準で活用できる機能やアプリケーションについては「パートナーと協力することで開発、提供していきたいと考えている」(同氏)とする。

先行企業からのフィードバックを受け機能改善

 国内のWatson先行導入事例として、ネスレ日本、日本航空(JAL)、東日本旅客鉄道(JR東日本)の取り組みを紹介した。主にチャット(会話)ボットとしてWatsonを使い、コールセンターのオペレーター支援や、顧客との対話によるやり取りに生かしている。

国内外のWatson先行導入事例
国内外のWatson先行導入事例
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 先行企業のフィードバックを受け、機能改善を続けている。「会話ログを収集し、意図を正しく把握できていない場合はGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)で修正する機能などを追加している」(元木氏)。

 顧客固有データの学習が必要なことから、本稼働までの期間と費用がかかることも課題だった。これに対しボットによる自動応答など、用途別にノウハウをパッケージ化した「AI in a Box」も提供済み。「従来は本稼働まで半年~1年かかっていたが、早ければ3カ月に短縮できる」(元木氏)という。

用途別にノウハウをパッケージ化した「AI in a Box」
用途別にノウハウをパッケージ化した「AI in a Box」
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