欧州エアバスは2017年11月14日、米マイクロソフトのゴーグル型端末「HoloLens」(ホロレンズ)で動作する、航空整備士向けの訓練アプリのプロトタイプ版を開発したと発表した。開発には同様の訓練アプリを2016年に試作した日本航空(JAL)も協力した。エアバスはJALがエアバス機を受領する2019年までの実用化を目指す意向とみられる。
開発したアプリは、エアバスの最新型機でJALも2019年に受領・就航を予定している「A350XWB」におけるドアの開閉手順やエンジンの始動手順を学ぶもの。エアバスが持つ同型機のCADデータを基に操縦席やドアを原寸大で再現しており、個々のボタンやスイッチの操作といった細かい作業も含めて一連の操作手順を自習できる。
一般に航空会社は、整備士や運航乗務員、客室乗務員を訓練するため、実機や原寸大のシミュレーターを利用し、操作手順を繰り返して習得していく。しかし近年は「航空機の故障が減って整備士が修理する機会も少なくなったり、航空機の稼働率が高まって訓練用航空機の確保が難しくなったりしている」(JALの整備子会社であるJALエンジニアリングの海老名巌人財開発部長)。
シミュレーターも高額であるため大量導入は難しかった。そこで訓練アプリをインストールしたHoloLensを使うことで、導入コストを抑えつつ体を動かして操作手順を身につける実践的な訓練機会を増やすことを狙う。
エアバスは2015年にマイクロソフトのHoloLensの開発パートナープログラムに参加し、HoloLens向けアプリの開発を進めてきた。同じくHoloLensの開発パートナーとなっていたJALと情報交換するなかで、エアバスの訓練アプリの開発にJALが協力することになったという。「2016年に自社でHoloLens用の訓練アプリを開発した際は『航空機メーカーの協力が得られなければ本格的に訓練アプリを開発するのは難しい』と感じていた。今回エアバスが開発に乗り出してくれたのは当社にとっても渡りに船だった」(海老名部長)。
JALは具体的には、「試作する訓練のシナリオとして、航空会社から見て訓練ニーズが高いドアの開閉手順とエンジンの始動手順を提案した。また、開発した訓練アプリを実際にJALの整備士が使って操作手順を習得し、その後に習得した通りの手順で実機を操作できるかテストし、問題なく操作できることを確認した」(JAL運航訓練審査企画部訓練品質マネジメント室の和田尚調査役機長)。
今後の実用化に向けたロードマップについては2社とも詳細を明らかにしていないが、「実用化されたら整備士の養成訓練の初期教材、自習教材として活用することが考えられる。実機がなくても、安全かつ低コストに整備士が繰り返し体験を重ねて知識を習得できるだろう。もちろん販売価格の問題もあるが、当社としてはエアバスが開発してくれればぜひ買いたいし、航空機メーカー自身が開発した高精細な訓練アプリならば世界中のエアラインが同様に買いたいと思うだろう」(海老名部長)と高く評価している。
記事掲載当初、JALエンジニアリングの海老名巌氏の肩書きを「人材開発部長」としていましたが「人財開発部長」の誤りでした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/11/15 13:00]