「残りの会社人生を掛けてkintoneを育て上げる。失敗したら引退する覚悟だ」(サイボウズ 青野慶久代表取締役社長)。

 サイボウズは2017年9月15日、業務アプリケーション構築クラウドサービス「kintone」において、米国向けに展開している同様のサービス「kintone.com」の運用基盤に他社IaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)を採用すると発表した。

 現在、kintone.comは中国、東南アジア、豪州といったほかのkintoneのグローバル展開地域と同じく、エクイニクス・ジャパンのデータセンターを使った自社運用のクラウド基盤「cybozu.com」上で稼働している。kintone.comの運用基盤については「1~2年後に国内の自社基盤から切り離し、他社IaaS上で運用開始する」(青野社長)。どのIaaSを採用するかについては「現在、複数の大手パブリッククラウドベンダーのIaaSを検討中」(同社長)という。

 同社の2016年度(2016年1月~12月)の連結業績では、売上高80億3900万円のうちクラウド関連サービスは40億5000万円と半分を超えた。主力製品に位置付けるkintoneは、数年前からグローバル展開を進めており、2017年8月時点で中国で約700社、東南アジアで約150社、米国で約130社が採用する。「中国や東南アジアの顧客は大半が日系企業だが、米国は現地法人が100社超と現地で受け入れられている」と、とりわけ米国での拡販に注力する意図を説く。

サイボウズの青野慶久代表取締役社長
サイボウズの青野慶久代表取締役社長
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三つの課題が顕在化

 サイボウズによると、他社IaaSに移行するのは、海外展開を拡大する上で三つの課題が顕在化したため。一つは現地データセンターでの運用を求める顧客の声が大きくなってきたこと。「金融関係などセキュリティを重視する顧客で、社内ポリシー上現地にデータセンターがあることが採用拡大の要件になっていた」(青野社長)。

 kintone以外の製品を同じ基盤で運用することで、問題も生じていた。例えば2017年6月には、別製品の不具合の影響で、同一基盤で運用していたkintoneのアップデートを延期した。

 米国では米グーグルや米マイクロソフトのグループウエアが浸透しているため、提供製品はkintoneに絞っている。他社IaaS上でkintoneのみを独立して提供することにより、「ほかの製品の影響で顧客に迷惑や混乱を与えるのを避けられる」(青野社長)と利点を挙げる。

 三つめは「EU(欧州連合)データ保護規則(GDPR)」への対応だ。現時点で欧州への進出は「具体的に検討していないが可能性はある」(青野社長)段階ではある。「今後の展開を見据え、欧州にデータを保有しなければならない場合でもすぐに対応できる体制を整える必要がある」と話す。

 これまで他社IaaSを採用しなかったのは、「数千社が採用している状況では自社基盤のほうがコストメリットが高い」(青野社長)からだ。今回他社IaaSの採用に踏み切ったのは前述の三つの課題解消に加え、「IaaSやPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)の進化が著しく、パートナーのエコシステムも充実してきた」(同社長)ことも理由の一つとする。