2017年7月4日に行われたイベント「Salesforece Trailhead Live Tokyo」では、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を提供するスタートアップ3社が登壇、SaaSスタートアップの成長に必要な、「カネ(資金)」「ヒト(社員)」「モノ(製品)」へのこだわりを解説した。

 登壇したのは、スモールビジネス向けのビジネスプラットフォームを提供するfreee代表取締役の佐々木大輔氏、飲食店向けクラウドサービスを提供するトレタ代表取締役の中村仁氏、Web電話帳アプリケーションを提供するPhone Appli代表取締役社長の石原洋介氏だ。

SaaSスタートアップに登壇したfreeeの佐々木氏(左から2人目)、トレタの中村氏(右から2人目)、Phone Appliの石原氏(右端)。モデレーターは、セールスフォース・ドットコムの浅田慎二氏(左端)
SaaSスタートアップに登壇したfreeeの佐々木氏(左から2人目)、トレタの中村氏(右から2人目)、Phone Appliの石原氏(右端)。モデレーターは、セールスフォース・ドットコムの浅田慎二氏(左端)
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 まず、スタートアップ企業に必要な資金について中村氏は、「高めのバリュエーション(評価額)で調達すること」が重要だとした。資本政策で自由度が出ることのほかに、社員が「企業価値を高める」意識を持つようになったことが理由だ。

 石原氏は銀行からの資金調達で苦労した時期を経て、米セールスフォース・ドットコムからの投資が大きな転機になったという。海外の投資家に理解できるような指標を作ったことで外部からの評価が得られるようになり、今では多くの事業会社からも資金を得られた。

 佐々木氏は事業成長シナリオを書く際に、個々の営業担当者の「伸びしろ」を提示するなど、投資企業向けに準備した実際の事業計画書の一部を披露してみせた。この資料は社員同士の理解を深めるなど社内向けの効果もあったという。

 社員については、「20人、50人、100人になったときに壁があった」としたのが石原氏だ。100人に達したときには社内マネジメントが成熟していないことによるトラブルが頻発、クレームの電話が頻繁にかかってくるようになったといったエピソードが語られた。この経験から、セールスフォース社内で使われる目標管理の仕組みを取り入れるようになった。

 中村氏は「SaaSには適切な成長スピードがある」と語る。消費者向けサービスと違って、ビジネス領域のサービスでは爆発的なサービス拡大が難しい。企業導入においては営業担当者が関与することが多いため、そのスピードが限界となるからだ。「解約が増えると、その対処に追われて完全に足が止まる」と、解約率の高まりは危険だと警告を鳴らしたほか、一般に「T2D3」と呼ばれる、当初2年は前年の3倍、その後の3年は前年比2倍が、適正なSaaSスタートアップの成長ペースだとした。

 佐々木氏は社員の採用に当たってのキーワードとして「タケノコ採用」を挙げた。意味するところは「のびしろあって、まっすぐ伸びるか」。具体的には、建設的に議論できるか、新しいことを勉強し続けられるかといった姿勢を重視する。特に社員数が少ないときには、新入社員を染め上げる社風ができていないことから、過去の成功体験を捨てて新しいことを吸収できる柔軟な人材が大事だとした。

 最後のテーマである製品について佐々木氏は、「経理の時間を50分の1にする会計ソフト」にこだわったことが、結果として企業価値となったという。創業当初、会計会社を回ったところ、誰からもほしいと言われなかったというが、既存ソフトの支援ツールのような中途半端な製品にせず、「どまんなかでやりきった」ことが成長の理由とした。

 石原氏が語ったのは、クラウドとオンプレミスの比較。すぐに結果が得られるオンプレミスに気持ちが傾いた時期もあったが、結果的にクラウドにこだわったことで開発スピードが得られ、最終的には大きな結果につながったという。

 中村氏は、製品開発について重要なのが「ユーザーファーストではなく、イシューファースト」とする。ユーザーの要求から、その裏に潜む「イシュー(課題)」を読み取り、その課題を解決できる機能の実装が重要だというのだ。ユーザーの声を直接反映するわけではないので、「失注することもあるので辛い」というが、たくさんの人が使う汎用的なツール開発には、この姿勢は欠かせないとした。