日立製作所は2017年6月26日、社員の幸福感を向上させるアドバイスを人工知能(AI)に提示させる実証実験の結果を発表した。営業部門の社員600人を対象に2016年6月から2016年10月にかけて実施したところ、幸福感の高さと四半期後の営業成績との相関が認められたという。

AIが働き方を提示してくれるスマートフォンアプリ、その基になる行動データを取得する名札型センサーを5カ月間利用した。モデルは日立製作所の矢野和男 研究開発グループ技師長。
AIが働き方を提示してくれるスマートフォンアプリ、その基になる行動データを取得する名札型センサーを5カ月間利用した。モデルは日立製作所の矢野和男 研究開発グループ技師長。
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 実証実験の対象は、日立グループのITや設備など26分野の法人営業部門の社員。600人に名札型のセンサーを着用させ、身体の動きから幸福感を「組織活性度」として数値化して記録する。センサーデータから推定した会議や立ち話、デスクワークの頻度などの行動データと照らし合わせ、「事務や書類作業は午前中にまとめて片付けるようにスケジュールを組んではどうか」といった働き方のアドバイスを提示するスマートフォンアプリを5カ月間利用させた。

 組織活性度を軸に社員の行動を分析したところ、(1)AIによるアドバイスの実効性、(2)組織活性度と業績の遅延相関、(3)従業員満足度調査とのシナジーが確認できたという。組織活性度とは、同社が2015年に開発したモデルで幸福感を定量化したもの。身体の揺れの持続時間のばらつきが大きいほど幸福感が高いと見なす。

 (1)では、AIが働き方のアドバイスを提示するスマートフォンアプリの利用時間が長いほど、翌月の組織活性度の増加量が高かった。AIは「出社・退社時刻」「会議の長さや人数」「デスクワークの仕方」などを日々の組織活性度に応じて提言する。同社のAIは、「跳躍学習」と呼ぶ独自技術。金額や時間といった評価関数を決めてデータを与えると、評価関数の数値が改善する特徴量を自動的に導き出せる。

AIが提示した働き方のアドバイス例。日々の組織活性度(写真中の「ハピネス度」)に応じて変わる。
AIが提示した働き方のアドバイス例。日々の組織活性度(写真中の「ハピネス度」)に応じて変わる。
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 (2)については、組織活性度の変化量が営業の受注達成率と相関性が認められたとする。具体的には、実証実験期間において組織活性度が上昇した部署は、下降した部署に比べて、翌四半期(10~12月)の受注額が平均27%上回った。これまで「コールセンターなどで組織活性度が業績に速やかに反映されることを実証できていたが、今回の法人営業を対象とする実験では遅れて連動する相関を確認できた」(日立製作所の矢野和男 研究開発グループ技師長)。

組織活性度の変化量と営業の受注達成率との相関係数。
組織活性度の変化量と営業の受注達成率との相関係数。
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 (3)は、従業員の満足度を調査するアンケートと組み合わせることで、業績向上につながる組織改善策のヒントが得られたとする。例えば組織活性度が高い部署では、自身の「意思決定や権限委譲」と「挑戦意欲」に関する回答が前向きなものだったという。

 今後は大規模対応や料金設定を進め、2017年度内をめどに実証実験のシステムの外販が可能な体制を整える。日立社内への全社展開は「未定」(矢野技師長)という。