2017年6月6日に行われた「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」では、「世界で活躍するスタートアップ企業をどうやって生み出すか」をテーマに国内外の投資家やイベント主催者が議論を交わした。登壇者は、ベンチャー・キャピタル(VC)であるインキュベイトファンド代表パートナーの本間真彦氏、米国のVCである500 Startupsの日本法人共同代表のジェームス・ライニー氏、Slush Tokyo CEOのアンティ・ソンニネン氏、中国の深センを拠点にハードウエア開発企業向けの投資を行っているHAXマネージング・ディレクターのダンカン・ターナー氏だ。

左から、イベント主催者であるInfinity Venturesの田中章雄氏、インキュベイトファンドの本間氏、500 Startups Japanのライニー氏、Slush Tokyoのソンニネン氏、HAXのターナー氏
左から、イベント主催者であるInfinity Venturesの田中章雄氏、インキュベイトファンドの本間氏、500 Startups Japanのライニー氏、Slush Tokyoのソンニネン氏、HAXのターナー氏
[画像のクリックで拡大表示]

 フィンランドで生まれたスタートアップ企業向けイベント「Slush」の日本版である「Slush Tokyo」を立ち上げる前に、フィンランドのモバイルゲーム会社の日本市場担当、日本のスタートアップ企業のグローバル化を担うCOO(最高執行責任者)を経験したソンニネン氏は、これらの経験を通じて「日本ではスタートアップ企業と投資家の間に見えない壁がある」「日本の企業の多くが、世界に販売するマインドセットを持っていない」と感じたという。そこで、Slush Tokyoでは、起業家が世界に向けて発信できる場として全てのプレゼンテーションを英語で行っている。

 ライニー氏も、日本企業の多くが英語で情報公開していないので、国外からはどうなっているか分からないと指摘する。さらに、大企業による買収が少なく、規模が小さい時点で上場してしまうために世界規模で大きく成長にしくいといった課題も挙げた。

 グローバル市場に出て行くには、どこかの段階で「グローバル化」の決断が必要になるが、これは難しいとライニー氏は言う。判断の一つは言語の選択だが、日本語を選択した場合には初期の成長は容易になるが、企業文化ができた後で英語を話す社員をうまく馴染ませられるかといった課題がある。最初から英語を選択する場合にはグローバル市場への展開が容易になるが、給与が低いスタートアップ企業に来てくれる人を確保するのが難しい。その対策として、日本で起業したい人たちを国外から呼び込むのも有効だとした。

 「英語による情報発信」について、ソンニネン氏は、Slush Tokyoのピッチコンテストに登壇する経営者の英語プレゼンの指導をした経験から「当初は心配したが、取り越し苦労だった」とした。「ある程度の楽観主義が必要」という。英語を話す会社として始動することで、「より大きな会社と仕事ができる」という積極的な考えが構築できるとした。

 英語による情報発信も一因だが、国際市場で日本企業の存在感は極めて小さい。ターナー氏は、HAXに応募した1250人のうち、日本人はわずか3人だけだったと紹介した。しかし、その3人は極めて優秀で「尊敬され、注目の的だった」という。

 日本での生活が長いライニー氏は、日本の存在感が薄い状況が「とても悔しい」として、自身も国際市場への情報発信を支援するとしたうえで、スタートアップ企業も国際市場への野心を持つように意識を変える必要があるとした。

 本間氏は、日本企業がグローバル市場に進出するための具体的な策として、日本市場と国外市場の中間にある「ハブ拠点」の設置を挙げた。具体的には、オーナーが日本人で、言語も日本語と英語がいずれも通じる米国法人、といった存在を試してみてはどうかというものだ。

 ライニー氏は「シリコンバレーも、6世代にわたる人たちが関わって、ここまで大きなエコシステムを構築した。それに比べると、日本では歴史が浅いので、成功した人たちがエコシステムに戻って、返す仕組みを構築できるといい」とした。

■変更履歴
当初、イベント名を「Infinity Ventures Summit 2017」としておりましたが、正しくは「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/06/07 17:30]