富士通は2017年5月30日、設計現場と生産現場をつなぎ、製品の組立工程の改善を支援するソフトウエア「FUJITSU Manufacturing Industry Solution VPS(Virtual Product and Process Simulator)」(以下、VPS)の新版を、6月1日より販売することを発表した。VPSは富士通の子会社であるデジタルプロセスが開発した製品で製造業向けに提供。組立工程の事前検討や、設計変更および改善に役立て、現場のIoT化を支援する。販売目標として、2020年度末までに売上50億円を掲げる。

 「IoTやスマートファクトリーというキーワードで何か取り組まなければ、と考える企業は増えている。これまではVPSは工場の中で数人が率先して使うソフトだったが、今回の変更で使いやすくなり、より多くの人に使ってもらえると考えている。今の10倍くらいの数のライセンスが利用されると想定している」と、デジタルプロセスのVPSビジネス部担当3D技術ソリューション部担当の山田洋一執行役員は述べる。

 VPSは、3次元モデルを使った組立工程の検討や、現場の情報に基づいた効率化を支援する。製品組立シミュレーションソフト「VPS DMU」、組立手順を検討するための動画作成などの機能を備える「VPS MFG」、工場内ラインをシミュレーションする「VPS GP4」、生産設備のシミュレーションをする「VPS IOC」の、大きく4つのソフトウエアがある。これらは、累計665社に導入実績があるという。

 「VPS DMU」は、3次元モデルで組立・分解のシミュレーションや、干渉チェックなどができる。「VPS MFG」は、3次元モデルを用いた動画作成機能を中心としたソフトで、組立工程の検討や組立性評価などが可能。作成した動画で、作業員が組み立て手順や方法などを確認できる。

 「VPS GP4」は、ラインシミュレーションのソフトで、人の動線なども含めた工場レイアウトの検討や、ラインバランスの調整などが可能。「VPS IOC」は、生産設備シミュレーションのソフトで、工場内ロボットの動作や制御プログラムを検証するのに使う。

 今回発表したVPSの新バージョンでは、使い勝手や機能を強化した。

 「VPS MFG」の動画作成機能では、自動化などにより、ユーザーの作業負担や動画作成時間の削減を可能にした。従来比で1/5に時間短縮できたという。具体的には、組み付け対象部品を拡大表示したり、「ねじはこれくらいの強さで締める」など工程に関する文字情報を付加するなどの作業を、自動で行うことができるようになった。

3次元モデルで組立手順を検討するための動画イメージ
3次元モデルで組立手順を検討するための動画イメージ
(出所:富士通、以下同じ)
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組み付け対象部品が拡大表示されている様子
組み付け対象部品が拡大表示されている様子
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 また、設計変更した部分を色分けで表示する。例えば1000個ある部品のうち、設計変更された5部品を赤で表示するなどだ。部品の設計変更があれば、それに応じて作業工程にも変更が生じるケースが多く、その際に役立つ。これまでは現場レベルで実際の作業工程のみ変更していたものを、データ上にも反映する。

設計変更部分を色分けで表示することで組立工程を検討しやすくする
設計変更部分を色分けで表示することで組立工程を検討しやすくする
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 VPSを活用し、工場のIoT化を促進する機能も強化された。「ラインシミュレーション」では作業員の位置を測位することで、複雑な現場のレイアウトを人の動線も含めてシミュレーションする。「生産設備シミュレーション」では、実機の通信ログから設備の稼働状況を再現できるという。

 産業・流通営業グループのものづくりビジネスセンター ものづくりプロモーション企画部の百木なおみ部長は「VPSは、CPS(サイバーフィジカルシステム)の考え方に近い製品。最終的にはリアル(現実空間)とバーチャル(サイバー空間)を一致させることを目指す。情報を常に更新し、現場の変更が設計側に、設計側の変更が現場に反映されるようにする」と述べる。CPSは「インダストリー4.0」の中核を担う概念で、現実世界をコンピューター上で再現しものづくりに役立てる考え方である。

 税別価格は、「VPS DMU」と「VPS MFG」がセットの「VPS Standard V15L19」は400万円。「VPS GP4 (V11L17)」が440万円。「VPS IOC (Express V20L19)」が400万円。「VPS MFG」の機能の一つである「VPS組立動画」が98万円。