三菱電機は2017年5月24日、都内で研究開発成果披露会を開催し、人工知能(AI)技術の開発戦略を説明した。同社が工場設備をはじめ様々な機器を開発、生産していることを生かし、機器側でデータを処理するエッジコンピューティング領域でのAI技術に注力する。同社のAI技術を「Maisart」と名付け、総称ブランドとして活用する。

 同社の常務執行役開発本部長の藤田正弘氏は披露会で「クラウドに大量のデータを送るのは効率的ではない。三菱電機の機器によるエッジ側の演算が必要になる」と語った。

三菱電機 常務執行役開発本部長の藤田正弘氏
三菱電機 常務執行役開発本部長の藤田正弘氏
[画像のクリックで拡大表示]
三菱電機のAI技術ブランド「Maisart」
三菱電機のAI技術ブランド「Maisart」
(出所:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社は披露会で、AIに関する複数の研究成果を公開した。会場でデモを実施したのが、産業用ロボットに位置決め動作を記憶させる際の「ティーチング」にAIを活用する研究だ。人がおおまかな座標を指定するだけで、あとはロボットが正確な座標を試行錯誤で見つけ出すことができる。

 今回のデモでは、三菱電機はロボットを使ったコネクタの挿入動作を実演した。ロボットの先端に画像センサーや力覚センサーを設置してそのデータをAIに入力する。AIがオスコネクタとメスコネクタの「ずれ具合」を計算し、ずれが減る方向へロボットを動かす。これを繰り返して、最終的な位置決めを自動化する。三菱電機は同様の研究を従来から取り組んできたが、同社の持つAI技術を改良することで、従来のAIと比べティーチングに必要な時間を50分の1に削減できたという。

 AIの演算方法も見直した。演算量を100分の1に削減することで、必要なメモリー容量やCPUの処理能力を低減できた。これにより、三菱電機が持つ機器へ搭載することが容易になったという。

AIによるロボットのティーチング
AIによるロボットのティーチング
[画像のクリックで拡大表示]

 1本のマイクで複数話者の音声を記録した同時音声を、AIを用いて一人ひとりの音声に分離する技術も公開した。同社によれば、1本のマイクで録音した同時音声の分離に成功したのは世界初という。事前に音声の特徴などを登録していない2人もしくは3人が同時に話した音声を分離し、別々に再生できる。

 理想的な録音環境でのシミュレーション値として、2人の同時音声で90%以上の原音再現率を実現した。3人では同80%以上を達成しているという。開発は同社が北米に持つ研究開発拠点が主に担当し、関連特許を8件取得している。ただし事業化は未定という。

同時音声の分離技術
同時音声の分離技術
(出所:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]