日本放送協会(NHK)は2017年5月23日、「第71回 技研公開(NHK放送技術研究所の一般公開)」プレス対象見学会を開催した。今回の技研公開では、「2020年へ、その先へ、広がる放送技術」をテーマにし、30項目の研究開発成果展示と、10項目のポスター展示、4項目の体験展示を実施する。

 NHK放送技術研究所 所長の黒田徹氏は、主な展示の一つとして、「AIを活用したスマートプロダクション」を挙げた。AIを活用して迅速かつ幅広い情報を取得・解析して番組制作を支援する技術と、障害者を含むあらゆる視聴者に情報を伝える人に優しいコンテンツへの変換技術を展示する。

写真1●NHK放送技術研究所 所長の黒田徹氏
写真1●NHK放送技術研究所 所長の黒田徹氏

 黒田氏は、報道番組の制作時におけるAI活用のイメージを示した。「NHKには、こういう事象が起きるとこういうニュースになりそうな出来事が発生する、ということについての蓄積がある。この蓄積を基に機械学習を実施する」「するとAIがこういう事象が起きているのでこういうニュースになる出来事が起きそう、ということを示すようになる。これをそのままニュースにするのではなく、その情報を基に取材を行う。番組制作の支援という形でのAI活用を考えている」とした。

 NHK放送技術研究所におけるAIに関する研究開発については、「機械学習やディープラーニングというベーシックな分野についての研究は、私が入る前から既に研究を開始していた。これまでの研究開発の成果についてもAIを活用しているものがある」などとした。

 会場ではAIを活用したスマートプロダクションの研究成果のデモを実施する。そのうちの一つが「ソーシャルメディア分析システム」のデモである。このシステムは、ソーシャルメディア上の大量のデータから、火事や電車の遅延といった番組制作に必要な情報を自動的に抽出する。「情報を自動で取り出すことによって、より迅速な番組作りに貢献できる」(説明員)という。

写真2●ソーシャルメディア分析システム
写真2●ソーシャルメディア分析システム
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 「原稿自動作成システム」のデモも実施する。例えば自治体が提供する河川の水位のデータを基に、水位が上昇したら過去の番組の原稿データを活用して、自動的に河川の水位上昇に関する原稿を生成できる。

写真3●原稿自動作成システム
写真3●原稿自動作成システム
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 このほかに2020年の東京オリンピック・パラリンピックでスポーツの魅力をより分かりやすく伝える映像表現技術として、「三次元被写体追跡スポーツグラフィックスシステム」を展示する。球技のシーン解析に必要とされるボールの三次元位置を高精度かつリアルタイムに算出し、CGを合成する。複数のカメラでボールの三次元位置計測を行い、正確なCGの合成を実現できるという。

写真4●三次元被写体追跡スポーツグラフィックスシステム
写真4●三次元被写体追跡スポーツグラフィックスシステム
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 スマートフォンの様々なアプリとテレビやIoT機器との連携を実現するHybridcast Connectの拡張フレームワークを活用したサービス例や、フルスペック8K制作システム、インテグラル立体テレビの要素技術、高色純度有機ELデバイスなども展示する。2017年5月25日から同28日まで一般公開する。

[「第71回 技研公開」のWebサイトへ]