富士通は2017年5月16日、AI(人工知能)事業の強化策を発表した。AIによって得られた知見の顧客企業との共有、自社内利用の推進などを軸に、富士通製AI「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(以下、Zinrai)」の機能を強化し、販売促進につなげる。現在同社には700人のAI専門技術者がいるが、2018年までに1500人体制に拡充する予定だ。

 「富士通は30年以上前からAIに取り組んでおり、AI技術の知見や技術が蓄積されている。それを体系化したのがZinraiだ。200件を超えるAI関連特許を出願し、日本のITベンダーではトップの実績」と谷口執行役員副社長は語る。

富士通のグローバルサービスインテグレーション部門長の谷口典彦執行役員副社長と、記者向け発表会で“司会者”を務めた同社のロボット「ロボピン」
富士通のグローバルサービスインテグレーション部門長の谷口典彦執行役員副社長と、記者向け発表会で“司会者”を務めた同社のロボット「ロボピン」
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 富士通のAIビジネスの主な柱は4つ。(1)オープンなAI、(2)自社利用の推進、(3)研究所やベンチャーとの共同開発、(4)グローバル展開の加速、だ。

 このうち(1)オープンなAIについては、協業により得られた知見を顧客企業と共有することで、同社の持つAI技術を強化・実用化する。これまでの協業で培った業種・業務ノウハウを活かし、画像認識、感情認識、推論、FAQ検索、対話型ボットなど、30種のAPIをすでにメニュー化し「Zinraiプラットフォームサービス」として提供。これらを組み合わせて顧客の課題を解決する提案をする。

 (2)自社利用の推進については、Zinraiを富士通社内で活用することでデータを蓄積したり、AIを学習させたりする。たとえばコールセンターの分野では、問い合わせにチャットで自動応対するAIに、社内導入で得た問い合わせ対応マナーなどのノウハウを活用している。これにより、顧客企業にはある程度学習済みのAIを提供することができ、より実用的な提案が可能になる。

 (3)研究所やベンチャー企業との共同開発では、協業により研究所の最先端技術を取り入れたり、ベンチャーの製品・技術を活用したりする。同社は理化学研究所と2017年4月に「理研AIP-富士通連携センター」を立ち上げ、「想定外を想定するAI」を研究開発しているという。

 「AIは囲碁やクイズなど特定のルールの中で学習するのは得意だが、いったん環境を変えると対応できなくなる」と、デジタルサービス部門AIサービス事業部長の原裕貴執行役員は指摘する。同センターでは、急な環境の変化など、従来のAIが弱点としていた分野に対応可能なAIを研究する。具体的な用途としては、未知のウイルスの検出や新型インフルエンザの分析、製造業における新素材の発見、などを想定しているという。

富士通のデジタルサービス部門AIサービス事業部長の原裕貴執行役員
富士通のデジタルサービス部門AIサービス事業部長の原裕貴執行役員
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 またベンチャーとの協業も進める。富士通は同日、量子コンピュータ向けソフトウエアを開発しているカナダ1Qbitとの協業を発表した。量子コンピュータ技術を応用した組み合わせ最適化や機械学習などが可能なAIクラウドを開発する。富士通はこの協業による成果を、Zinraiのクラウドサービスのオプションとして、2017年中に提供する予定だ。