マンション運営大手の大京のグループ会社で、総合ビル管理事業を手掛けるオリックス・ファシリティーズは2017年4月21日、ビル管理業務や工事業務に、カメラ付きスマートグラスを導入すると発表した。2017年6月から現場で本格活用する。スマートグラスを適用するのは、ビル管理業務や工事業務における検査と、新入社員など若手社員の教育の二つの領域だ。

写真●大京のグループ会社、オリックス・ファシリティーズが2017年6月から活用を始めるカメラ付きスマートグラス
写真●大京のグループ会社、オリックス・ファシリティーズが2017年6月から活用を始めるカメラ付きスマートグラス

 同社は、後見込まれる人口減少に伴う人手不足に備えるため、ITを駆使した業務改革を進めている。スマートグラスもその一環で着目した。「2016年5月から、20拠点でトライアルしたところ、インスペクション(検査)と教育で大きな効果が得られたため、まずこの二つの領域から活用を始めることにした」と、堀靖雄事業統括部業務改革室室長は話す。

 二つの領域では、現場で検査に当たる担当者や現場でビル管理などの作業に携わる若手社員がスマートグラスを装着する。本社オフィスや事務所にいるベテラン社員が遠隔で作業状況を把握したり、指示やアドバイスを出したりして現場作業の効率化などを図る。

 現場の社員が装着するカメラ付きスマートグラスは、エプソン販売の「MOVERIO/MOVERIO Pro」。屋外作業用としてヘルメットに装着可能で、防塵防滴機能を備える業務用モデルのMOVERIO Proを、屋内作業用と教育用には小型モデルのMOVERIOをそれぞれ採用した。合計7台導入する。

 加えて、オプティムが提供する遠隔作業支援システム「Optimal Second Sight」も採用。これらを組み合わせて、ベテラン社員は事務所に設置したパソコンから、現場の社員が見ている映像を確認。音声でやり取りしながら、現場作業を遠隔で支援する。

写真●遠隔で支援するベテラン社員。ノートパソコンの画面では、スマートグラスのカメラ映像がWi-Fi経由で届き、リアルタイムで確認できる
写真●遠隔で支援するベテラン社員。ノートパソコンの画面では、スマートグラスのカメラ映像がWi-Fi経由で届き、リアルタイムで確認できる

 Optimal Second Sightでは、遠隔支援するベテラン社員と現場の社員がスマートグラスで捉えた映像をリアルタイムに共有できる。ベテラン社員は映像を見ながら赤ペンで書き込んだり指さしアイコンを表示させたりできる。赤ペンの書き込み内容や指さしアイコンは、カメラ映像とともにスマートグラスにも表示される。そのうえで、ベテラン社員が音声で「赤く囲んだ部分の数値を読んでください」といった作業の指示を出す。

写真●ベテラン社員の操作例。ノートパソコンの画面から赤ペンで指示を書き込むと、スマートグラスにも同じように表示されるので、指示内容を共有できる
写真●ベテラン社員の操作例。ノートパソコンの画面から赤ペンで指示を書き込むと、スマートグラスにも同じように表示されるので、指示内容を共有できる

 ベテラン社員は遠隔でスマートグラスのカメラで撮影し、撮影した画像に赤ペンで書き込んで共有できる。ベテラン社員のパソコンから現場の図面データをスマートグラスに表示させることも可能だ。

 2016年のトライアル期間では、上気機能を検査業務や現場社員の実地教育に適用し、有効性を確認したという。検査業務では、スマートグラスを装着した現場の担当者の作業内容を、オフィスにいる上司が遠隔で確認。必要に応じてアドバイスを出した。「現場の担当者からは『上司のアドバイスを得ながら検査できる』と好評だった。遠隔地にいる社員と現場の社員で、検査内容や結果をダブルチェックできるので、検査そのものの質も高められた」と堀室長は成果を話す。

 一方、実地教育では現場の担当者がそれまで手掛けたことがない現場作業をベテラン社員が遠隔でサポート。「ベテランの遠隔指示で無事を終えることができた。現場担当者への教育に有効だと判断した」(堀室長)。

 トライアルでは現場担当者が使うツールにタブレットも検証したが、採用は見送った。「両手が空き、現場での作業がしやすくなることから、スマートグラスの採用を決めた」と新田直之事業統括部事業統括部主任は明かす。

 Optimal Second Sightでは、一連の作業の映像や指示内容などが記録できるため、若手社員向けの教育コンテンツ制作も視野に入れているという。今後はスマートグラス側に音声認識機能を加えて、現場の社員が音声の指示で検査項目を確認したり検査結果を記録したりできるようにすることも検討している。