日本IBMの執行役員チーフ・テクノロジー・オフィサーで技術と創造担当の久世和資氏は2017年3月9日、日経BP社主催の「Cloud Days/ビッグデータ EXPO/セキュリティ/モバイル&ウエアラブル/IoT Japan/ワークスタイル変革/FACTORY/デジタルマーケティング」で講演した。

日本IBM 執行役員 チーフ・テクノロジー・オフィサー 技術と創造担当 久世和資氏
日本IBM 執行役員 チーフ・テクノロジー・オフィサー 技術と創造担当 久世和資氏
(撮影:井上裕康)
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アルパイン 経営企画担当 理事 前田眞二氏
アルパイン 経営企画担当 理事 前田眞二氏
(撮影:井上裕康)
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 講演では、人工知能(AI)やブロックチェーン、IoT(インターネット・オブ・シングズ)といった、企業が取り組む新規ビジネスの源となる先進技術の現状と、同社が協業する事例の一つで、アルパインによる車載システム領域での先進技術の取り組みについて紹介した。

 久世氏は冒頭、ビジネス分野に起こっているトレンドを三つ挙げた。(1)仮想化技術やソフトウエア定義型のインフラストラクチャーなどのように、モノやコトが情報化されていること、(2)拡張性の担保などによって計算能力が急拡大していること、(3)API連携などによってサービス開発のスピードが上がっていること、である。

 ビジネスを成長させる基盤となるのが、クラウドサービスであるという。かつてのクラウドサービスはインフラのコストを下げるためのものだったが、現在ではAPI連携などを利用したSoE(価値創出型システム)への取り組みなどに使われるようになっており、将来は複数の企業やクラウドが連携してサービスを実現するようになるという。

 クラウドサービスを活用してビジネスを変革した事例も紹介した。米シティバンクは、口座情報を参照するといった銀行の機能をAPIとして公開し、第三者にアプリケーションを作らせているという。自転車競技チームのUSAサイクリングは、選手に1年間バイタルセンサーを付けて分析した結果、自転車の追い抜き競技で銀メダルを獲得したという。

 久世氏は、クラウド上で活用するべき先進技術で、ビジネスのイノベーションにつながるキーワードとして、AI、ブロックェーン、IoTの三つを挙げる。さらに、先進事例の一例として、質問応答システム「IBM Watson」を活用した輸送バスの紹介ビデオを見せた。乗客と対話しながら観光案内したり、自動運転したりする事例である。

 先進技術の一例として、米IBMが2017年3月6日に公開したばかりの、量子コンピュータの商用クラウド「IBM Q」についても、ビデオで紹介した。

 講演の後半では、先進技術を取り込んでいる事例として、カーオーディオなどを手がけるアルパインで経営企画担当理事を務める前田眞二氏が登壇した。同社は日本IBMと協業し、IBM Watsonなどの先進技術を活用した新しい車載システムを開発している。

 新しい車載システムでは、クラウド上にある様々なデータを動的に活用し、運転手や同乗者に合わせた快適なドライブ体験を提供する、としている。例えば、運転手の運転志向や傾向に合った経路を学習したり、SNSの情報や嗜好分析によって経由地や目的地を提案したりできるようになる。

 車載システムのユースケースのビデオも見せた。ビデオの登場人物は、車でパーティに向かっている途中、片方のイヤリングを無くしたことに気付く。車載システムは、画像認識によってイヤリングの型番を認識し、売っている店舗を調べ、自動運転で店舗に向かう。

 前田氏は、PoC(プルーフオブコンセプト、概念実証)として取り組んでいる例をいくつか紹介した。一つは、車載システムとクラウドを連携させることで実現するアプリケーションで、複数の車線がある場合にレーン単位で交通情報を生成し、推奨レーンを表示するというもの。もう一つは、運転手の振る舞いを解析した上で、その時の運転手に適した案内を提供するというもの。いずれもIBM Watsonによる自然言語の会話によって案内を提供する。