「ここにずっといるとするなら、どうすればやりがいのある組織に変えていけるだろうか」。カネカの業務革新推進部情報システム室長を務める矢吹哲朗氏は2017年3月3日、大阪市内で開催された「Cloud Days/ビッグデータ EXPO/セキュリティ/モバイル&ウエアラブル/IoT Japan/ワークスタイル変革/FACTORY」(主催:日経BP社)の基調講演をこう切り出した。2002年に研究所から情報システム部に異動したときの感慨だという。

カネカの業務革新推進部情報システム室長を務める矢吹哲朗氏
カネカの業務革新推進部情報システム室長を務める矢吹哲朗氏
(撮影:直江 竜也)
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 矢吹氏はNotesをOffice365に切り替えたのを契機に、情報システムをクラウドに移行するメリットを確信。2015年から2016年にかけて、全てのシステムをクラウドに移行する方針を固めて指針を作成した。それまで経営陣からコスト削減のためのツールとしてしか見られていなかった化学業界でのIT活用を、金融業や流通業のように企業戦略に直結したものに変えていくという決意を込めたものだ。

 ITの戦略的な活用を実現するためにとった方策は三つある。(1)人材の変革、(2)マインドの変革、(3)仕事の質の変革である。このうち人材の変革については、2007年ころから長い期間をかけて取り組んできた。

 化学メーカーであるカネカでは、IT分野の素養がある新卒社員を生産部門が採用し、管理系の情報システム部門にはほとんど配属されない。他部署から人材を補充して教育しようにも、40代・50代ばかりのシステム部員が実業務をこなしながら若手の育成まで手掛けるのも難しい。悩んだ末に決断したのが、「ないものねだりはやめて、キャリア採用をすることだった」(矢吹氏)。

 インフラ、アプリケーション、企画の各領域でエース級人材のキャリア採用を進めると同時に、各領域の30代・40代・50代の人員構成のバランスをとるために、毎年1~3人の採用も続けた。領域・年代ごとにリーダー人材も育成している。この結果、40代・50代に片寄っていた人員構成を、均衡のとれた姿に変えることができてきたという。

 矢吹氏が最も難しいと感じているのが、2番目のマインドの変革である。従来、開発チームは業務部門の要望に沿ってシステムを開発・導入することが、運用管理チームはシステムを安定的に運用することが主眼だった。もちろん、それぞれ大切なことではあるが、システム部門として企業戦略により大きく貢献していくためには、マインドの変革が不可欠だと判断した。「例えば○○システムの導入という名称の提案書は、業務部門に導入責任を押し付けた姿の象徴であり、情報システム部門がIT活用によって事業貢献するというコミットメントを表していない」(同)と考えた。