KDDIは2017年2月22日、次世代通信規格「5G(第5世代移動通信システム)」で基地局間をまたいで通信を接続する「ハンドオーバー」実験に国内で初めて成功したと発表した。5Gの受信端末を搭載した自動車で基地局間を走行する際に、電波の境界域で基地局を安定して切り替えられることを確認した。条件の厳しい市街地で接続を確認できたことから、今後のより実用的な技術実証に弾みがつくという。

KDDIが実施した基地局間をまたぐ5Gの接続実験の様子
KDDIが実施した基地局間をまたぐ5Gの接続実験の様子
(出所:KDDI)
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 「今回、実際の状況に近い条件でハンドオーバーの実験に成功した。今後は具体的なユースケースの実証に取り組みたい」。KDDI 技術開発本部の松永彰 シニアディレクターは、実証実験の手応えをこう紹介した。

 今回の実証実験では、5G周波数帯域の候補である28GHz帯の高周波数帯の電波を用いた。都内の市街地や首都高速などで接続性を検証し、自動車の走行中に最大で3.7Gbpsのスループットを達成。実験に使用した機器は韓国のサムスン電子が開発し、インフラ構築をKDDIが担当した。2017年4月からは、新宿でより実用に向けたユースケースのデモを公開する計画だ。

5Gの受信端末を搭載した実験車両
5Gの受信端末を搭載した実験車両
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 5Gの適用先は広く、高精細動画の大容量データ通信から、低遅延性が求められるAR(拡張現実)技術やVR(仮想現実)技術、産業現場や遠隔医療などに利用できる。KDDIは通信事業者から“ライフデザイン企業”への変革を掲げており、5Gをそれに欠かせない技術と位置付ける。現在、同社は自動車や鉄道、セキュリティなどでのサービス提供を目指し、複数のパートナー企業と協議を進めているという。

 同日、KDDIはセコムと提携を発表し、5Gを使ったセキュリティシステムの構築に向けて協力していくとした。

5Gを活用したセキュリティシステムの構築に向けて提携を発表するKDDI 技術開発本部の松永彰 シニアディレクター(左)と、セコム 企画部の寺本浩之 担当部長
5Gを活用したセキュリティシステムの構築に向けて提携を発表するKDDI 技術開発本部の松永彰 シニアディレクター(左)と、セコム 企画部の寺本浩之 担当部長
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 5Gは従来の通信と比較して高い周波数帯の電波を使用するため、高速・大容量の通信が可能になるが、遠く離れた場所まで安定した電波を送信できないといった課題がある。このため、電波を送信する範囲を狭めて電波の届く距離を延伸する「ビームフォーミング」技術を採用するのが一般的だ。指向性を持たせた電波で端末に情報を送信するため、5Gでは端末に向けて正確に電波を送信したり、基地局間において適切なタイミングで接続を切り替えたりする技術が必要になる。