SAPジャパンは2016年11月17日、ERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA」の新版「1610」の提供を始めたと発表した。新版ではこれまでSCM(サプライチェーン管理)やEWM(拡張倉庫管理)など、ERPとは別に提供していたアプリケーションの機能の一部をS/4HANAに統合することで、S/4HANAで実行できる業務処理を増やした。

 提供形態についても、これまで中心だったオンプレミスに加え、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)版など4種類を用意した(関連記事: SAP、次世代ERPのSaaS版を国内投入、PaaSの活用でアドオンを分離)。

 SCMやEWMの機能をS/4HANAに統合したことのメリットについて、「生産計画の立案や在庫の引き当てといったリアルタイムで実行したい業務を、高速に処理できるようになる」とSAPジャパン ソリューション統括本部の鈴木章二シニアディレクターは説明する(写真1)。

写真1●SAPジャパン ソリューション統括本部の鈴木章二シニアディレクター
写真1●SAPジャパン ソリューション統括本部の鈴木章二シニアディレクター
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 S/4HANA 1610では機能統合のほかに、UI(ユーザーインタフェース)に「Fiori」の最新版である「2.0」を採用した。FioriはHTML5やJavaScriptなどを利用して開発できるSAPのアプリケーション向けのUI。Fiori 2.0では、必要な情報をタイル形式で表示できるようにした。加えて、ユーザーがアクセスログを確認できる「Meエリア」や、ユーザー向けにパーソナライズした通知と必要な情報を表示するエリアなどを作った。

 S/4HANAは、インメモリーデータベース(DB)を核にしたミドルウエア「SAP HANA」を動作基盤とするERPパッケージ。2015年1月に欧州SAPが23年振りに発表した新製品だ。前版「S/4HANA 1511」では、前世代の製品となる「SAP ERP」として提供していた主要機能をHANA上で動作するように最適化していた。

 一方で、SCMなどSAPのほかの業務アプリケーションはHANAへの最適化を実施していなかった。「今後もSCMなどの機能をHANAに最適化して、S/4HANAに統合していく作業は続けていく」と鈴木シニアディレクターは話す。

オンプレミス、クラウドと提供形態は4種類に

 S/4HANA 1610は4種類の形態で提供する。オンプレミス、プライベートクラウド、そして「S/4HANA Cloud」というブランド名の2種類のパブリッククラウドサービスだ。

 S/4HANA Cloudは利用企業がメンテナンス計画を選択できたり、従来からのSAPのアプリケーションのUIである「SAP GUI」が選べたりする「Private Option」と、SaaSとして提供される「Public Option」がある。いずれもサブスクリプション型のライセンス形態を採り、SAPが運用サービスを提供する。

 「従来からのオンプレミスに加えて、クラウドサービスの提供によって選択肢が広がった。オンプレミスの利用企業がクラウドに興味を示している。今はオンプレミスが中心だが、今後はクラウドの利用企業が増えるだろう」とSAPジャパンの長坂宏毅 SAP S/4HANAジェネラルマネージャーはみる(写真2)。

写真2●SAPジャパンの長坂宏毅 SAP S/4HANAジェネラルマネージャー
写真2●SAPジャパンの長坂宏毅 SAP S/4HANAジェネラルマネージャー
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 S/4HANA 1610の提供開始と同時に、「導入を支援するパートナーの拡大も目指す」と長坂ジェネラルマネージャーは話す。現在、S/4HANAの導入サービスを提供するパートナーは22社ある。このほか、パートナーが提供するS/4HANA向けのテンプレートも増やしていく。

 現時点でS/4HANAの導入企業はグローバルで4100社だ。日本企業への導入実績といった内訳は公表していない。長坂ジェネラルマネージャーは、「新規の顧客だけでなく、既存のSAP利用企業からの引き合いもある。S/4HANAは好調だと考えている」とした。