「人工知能(AI)技術の進化によって新たなサービスが次々と創出されている。同時にリスクも増える。シンギュラリティを見据え、法制度や倫理観など含めたAI活用の在り方を考えるべきだ」。

 NECの新野隆 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO(最高経営責任者)はこう話す。新野社長は2016年11月1日から2日開催の年次イベント「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2016」の基調講演に登壇した。講演の題目は「デジタル産業革命を支えるNEC~安全・安心・効率・公平な社会の実現~」。

新野 隆 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
新野 隆 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
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 新野社長は講演中、2017年に有識者会議「NEC未来創造会議」を発足することを明らかにした。AIなどのIT活用によって変化する社会の枠組みについて議論することが狙い。社内外から約10人を有識者として選出する。企業だけではなく大学など研究機関からも参加する。2020年までをめどに定期的に議論の場を開くという。

 「米ウーバー・テクノロジーズや米エアビーアンドビーなど、ITを使って新たなビジネスモデルを構築する企業が増え始めた。ITを駆使したデジタルビジネスが、産業における新たな価値を生む」。講演の冒頭で、新野社長はこう話し、顧客のデジタルビジネスの創出に注力すると訴えた。

 顧客のデジタルビジネス創出のためにNECは、AIの技術開発に注力する。「顔認証技術は世界でナンバーワン」(新野社長)と強調したほか、大学などの研究機関と人間の脳を模したアーキテクチャーなど、AIの活用を見据えた研究開発を進めているという。

 開発した技術は「個別のビジネスの目的に合わせて、実用化する」(新野社長)。例えば、コンタクトセンターの問い合わせ対応。講演日の11月1日、問い合わせ対応にAIを使うソフトウエア「自動応答ソリューション」の販売を開始した。問い合わせ文章の意味を、主語や述語などに分類して理解できるという。

 このほか、デジタルビジネス支援に向けて注力するのは「コネクティビティ」と「セキュリティ」だ。

 コネクティビティは、IoT(インターネット・オブ・シングズ)の通信技術や、第5世代の移動通信システム「5G」などを想定する。SDN(ソフトウエア・デファインド・ネットワーク)や海底ケーブルなどでは既に実績を積んでいることもアピールした。

 新野社長は講演の中で一貫して、新しいテクノロジーが普及するのに合わせて、セキュリティリスクが高まることを強調した。「IoTでは、つながるモノが増えれば増えるほど、リスクも増加する」(新野社長)。

 リスクは、サイバー攻撃や内部犯行など多様化しているという。「リアルとサイバーの両システムを含む全体を守ることが必要」(新野社長)とする。例えば、工場では生産現場のOT(オペレーショナルテクノロジー)、機器をつなぐネットワーク技術などだ。「脅威は特定のシステムに限らず、社会全体を対象としている」として講演を締めくくった。