図 講演した沖デジタルイメージングの新井保明氏
図 講演した沖デジタルイメージングの新井保明氏
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 「プリンタヘッドに使ったCOBに載っているLEDチップは、ウエハーのどこから取ったものかが分かる」。沖デジタルイメージング(ODI)技術部第三チーム課長の新井保明氏は、イベント「FACTORY 2016 Fall」(2016年10月19~21日、東京ビッグサイト)で「つながる工場のOKIの事例紹介~国内―海外工場のIoT取り組み」と題して講演した。同社が2010年以来構築してきた、海外生産拠点をつないだトレーサビリティー確保のためのシステム「ODI Production controland Total Analysis System(OPTAS)」について紹介した。

 ODIはLEDチップからプリンターまでを一貫生産している。チップは日本国内の生産だが、チップ基板に実装するCOB(Chip on Board)の工程はタイのランブーン、それを使ってLEDヘッドを製作する工程はタイのアユタヤと中国の深セン、最終製品の組み立てはタイ、中国、日本国内の3カ所の拠点と、分散して実施している。以前はタイでCOBから最終製品までを一貫生産していたが、2011年のタイの大洪水を機に、事業継続性を重視して拠点を分散した。

 しかし拠点を分散したことで、トレーサビリティーは確保しにくくなる。前拠点の品質によって後工程の作業を調整することも難しくなり、工程間の仕掛在庫も増える傾向が生じた。そこでODIは全ての拠点で1工場であるかのように情報を共有できるように「仮想インラインシステム」を構築した。

 仮想インラインシステムでは、仮にプリンターで問題が発生した場合、プリンターに使われているヘッドのシリアルナンバーが特定でき、さらにヘッドに使われているCOBのシリアル番号が分かり、COBに載っているチップが製造工程でどのウエハーのどの部分から取ったものかも分かる。LEDチップの材料メーカーとも接続し、材料の情報までたどることができる。生産中のウエハーやCOB、ヘッドのシリアル番号の識別にはバーコードを用いる。

 このシステムにより、1工場内にいるかのように前後工程の情報が分かるようになる。これによって、仕損費(不良品の部材廃棄費)は、2014年上期と2015年上期の比較で7割削減できたという。「システムを導入したから効果が出たのではなくて、問題点をお互いに見られることで削減できた」(新井氏)。これまで不良の基準は拠点によってまちまちであり、すなわちある拠点では不良にならないものでも別の拠点では不良になっていた。これを統一の基準にできたことも大きいという。

 既に情報を一元化できたことから、今後はさらに高度な自動化に取り組む。現在システムの情報を基に人が手掛けている、装置への部材のセットや取り出しを、人型ロボットによって自動化する検討を開始している。AI(人工知能)を用いた、生産工程での臨機応変な調整も始めるという。