日経コミュニケーションの玄忠雄記者は2016年10月21日、東京ビッグサイトで2016年10月19日から21日まで開催中の「ITpro EXPO 2016」で、「働き方改革はビジネスチャットから」と題して講演。「ビジネスチャットの良さを生かすためには、メールとは使い方を根本的に変える必要がある。閲覧すべき情報を氾濫させないよう会議室に参加する関係者を適切に選ぶなど、チャットならではの運用ルールを決めて導入するべき」と訴えた。

日経コミュニケーションの玄忠雄記者
日経コミュニケーションの玄忠雄記者
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 講演では、まずメールが抱えている問題点として、メーリングリストや同報メールなどの“濫用”で必要な情報を見つけにくくなっていることなどを指摘。関係者が参加する「会議室/トーク」に投稿して議論が進むビジネスチャットの場合は、関係者が同報メールに返信することで議論を進めるより、議論の進め方が見やすくなるとした。

 文面がかしこまってしまい返信も含めて連絡が遅れがち、企業によっては1人1つのメールアカウントを持っていないなどのメールの問題点を挙げた。ビジネスチャットはこれらメールの問題点を改善する解決策になり得るという。

 例えば、スマホでの利用を前提にしたビジネスチャットは1人1アカウントの利用が前提になる。個人向けの「LINE」などの普及もあり、契約社員や若年層のアルバイトなど様々な雇用形態の人に導入しても、導入効果を短期で出しやすいという。

 玄は、ビジネスチャットを導入する判断材料として、個人向けチャットサービスが無断で使われている「シャドーIT」問題を挙げた。LINEなどがシステム部門の管理が及ばないところで、取引先や従業員同士の連絡など現場業務で使われている例が急増しているという。そのうえで個人向けチャットが業務利用されているなら状況を黙認するのでなく、企業が管理できるビジネスチャットの導入を検討するべきとした。

 講演では、実際にビジネスチャットで現場力を高めた企業や事業主の導入事例を紹介した。例えば外食チェーンのエー・ピーカンパニーは、展開する業態の一つである「四十八漁場」でビジネスチャットを導入している。

 ユーザーは本部スタッフ、主にアルバイトで構成するホールスタッフ、食材を卸す生産者である漁師の3者。漁師がその日に獲ったお薦めの魚を写真付きで投稿し、ホールスタッフが漁師とコミュニケーションを取りながら薦め食材の情報を学び、接客に生かすという使い方をしている。

 玄記者は、四十八漁場でのビジネスチャットの導入効果として、生産者が発する情報を店舗スタッフと直接共有できる状況が、関係者のモチベーション向上にもつながった側面にも触れた。店舗での来店客の反応を通じて漁師は四十八漁場の業態への協力意識が高まる。ホールスタッフは食材情報を直に学ぶ機会を得て接客へのやる気が高まるといった具合である。

 講演では、ビジネスチャットが効果を上げる導入ルールの例も紹介した。第1に、要件から会話を始めること。メールとは異なり挨拶や相手への呼び掛けは省く。「OK」など状況を了解したことを表現する簡潔な返事も積極的に使う。

 第2に、「会議室」の開設は、議論に参加するべき関係者を適切に絞って招待すること。所属部署の全員を広く招待してしまうと、各社員は閲覧するべき投稿が増えてしまう。重要な連絡を見落としやすくなるなど、メールと同じ弊害が生じる。

 第3に、会議室のタイトルを工夫すること。会議の趣旨が分かるようにするほか、「終結」「進行中」など議論がどういう進行状況にあるのかを付加するのも工夫の一つとした。

講演の様子
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