「Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureを導入したユーザー企業の多くは、その過程で何らかのつまずきを経験している」。東京ビッグサイトで2016年10月19日から21日まで開催されている「ITpro EXPO 2016」の講演で、日経クラウドファースト編集長の中山秀夫氏はこう指摘した。

 講演のタイトルは「事例に見る、クラウド導入のつまずきポイント」。中山氏は「AWSやAzureのようなIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)・PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)のクラウドサービスは、決してターンキーではない。いわば、組み合わせて使う細切れの部品集であり、使いこなしのノウハウや工夫が必要になる」と強調し、4社の事例を紹介した。

日経クラウドファーストの中山秀夫編集長
日経クラウドファーストの中山秀夫編集長
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 最初に取り上げたのは、ファーストリテイリングの事例。同社は現在、「G1」と呼ぶ基幹システムをオンプレミス(自社所有)環境からAWSに順次移行中だ。AWSへの移行を早期に終えることを重視しており、そのためにアーキテクチャーの変更やアプリケーションの改修はできる限り避けている。

 この移行ポリシーのため、オンプレミス(自社所有)環境にある、基幹システムG1のデータベース「Exadata Database Machine」を使い続けることにした。AWSにExadataに相当するサービスが存在しないので、これもAWSに移行しようとすると大幅な改変が必要になるからである。

 その結果、人事、会計、在庫などのデータベース(Exadata)はオンプレミス環境、アプリケーションサーバーはAWS上という泣き別れの状態になり、両者を結ぶネットワークの遅延が問題になった。特に、アプリケーションサーバーで夜間に実行するバッチ処理が所定の時刻までに終わらない、という問題が深刻だった。

 苦肉の策として、ファーストリテイリングはExadataを増強し、2割の夜間バッチ処理をこれで実行するようにした。このほか、SQLのチューニングなどを行いネットワークの負荷を軽減。夜間バッチ処理が所定の時刻までに終わるようにした。

講演の様子
講演の様子
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 この事例からの学びとして、中山氏は「既存システムのアーキテクチャーを変更せず、部分的にクラウドに持って行くと問題が起こりやすい。クラウド移行時には、アーキテクチャーを再設計すべきだ」と訴えた。ファーストリテイリングはこのことを理解しており、AWSへの移行を終えたあとでアーキテクチャーを見直す予定だという。

使い方でコストが大きく変わる

 さらに、竹中工務店での「Azure Machine Learning」の活用事例を取り上げた。同社はAzure上に、ビルの電力消費量を機械学習によって予測するシステムを構築した。当初のアーキテクチャーでは、Azure Machine Learningに送るデータが多かったため、実用に耐えないほど膨大なコストが掛かった。そこでAzure Machine Learningにデータを送る前に、抽出や正規化などの前処理を行う仕組みを付加したところ、コストが劇的に下がったという。

 中山氏は、この事例を基に「クラウドは使い方でコストが大きく変わる。コスト削減の検討や工夫を重ねることが重要だ」と訴えた。

 このほか中山氏は、東急ハンズ、ファッションECサイト運営のマガシークの事例を紹介。「テストによって、クラウドサービスの想定外の制約やクセを把握し、柔軟に対処することが必要」「クラウドサービスの機構や仕様がいつの間にか変わることがあるので、ユーザーは日ごろからアンテナを張ってそれに気付き、対処しなければならない」(中山氏)と強調した。