2016年10月19日から10月21日にかけて東京ビッグサイトで開催している「ITpro EXPO 2016」において、「AIの未来は我々が創る! 話題の日本発ベンチャー4社が徹底議論」と題するパネル討論が行われた。パネリストとしてABEJA 代表取締役社長CEOの岡田陽介氏、FRONTEO 取締役 行動情報科学研究所所長・CTOの武田秀樹氏、メタップス 代表取締役CEOの佐藤航陽氏、Preferred Networks 取締役 COOの長谷川順一氏が登壇し、モデレータを日経BPイノベーションICT研究所の田中淳上席研究員が務めた。

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AIをベンチャー企業はどうとらえているのか?

 最初の問いとしてモデレータの田中上席研究員は、「ベンチャー企業はAIのテクノロジーをどのように捉えているのか」と投げかけた。

 Preferred Networksの長谷川氏は、「IoTで収集するデータを、すべてクラウドに送ると膨大な量になる。それを回避するためにPreferred Networksでは、IoTに近いエッジ側で分析をするディープラーニングのフレームワーク『Chainer』を提供している」と自社のサービスを紹介し、「AIとディープラーニングは近い。かつてのAIはすべて人間がアルゴリズムを指定していた。しかしあいまいなアルゴリズムは人間には作れない。あいまいな処理ができるディープラーニングのポテンシャルは高い」と語った。

 日本で初めてディープラーニングを専門的に扱う企業と称するABEJAの岡田氏は「私は最初CGから入った。CGとAIは接点がないようにみえるが、『ディープラーニングで画像処理をする』という形でつながった」と自身の経歴を紹介した後、「小売りや流通で活用されている当社のサービスでは、クラウド上のディープラーニングでデータ解析を行っている一方で、従来の機械学習や統計解析も行っている。それらを組み合わせたものがAIだ」とABEJAにおけるAIの考え方を語った。

 広告や金融にAIを活用しているメタップスの佐藤氏は「広告や金融では、画像処理を使わずに数字だけを扱う。ディープラーニングは活用しているが、テクノロジーそのものよりも、重要なのはデータの質と量だと感じている」と述べた。

 訴訟などのリーガル分野からヘルスケア、マーケティング、BIなどの分野にAIの活用を広げているFRONTEOの武田氏は、「少数のデータでも分析できることが必要。訴訟では言語が分析対象となる。言語はあいまいであり、多義性が強い。そこで自分たちでAIのアルゴリズムを組み立てた」といい、「当社のAI『KIBIT』は協調型のAIであり、人間のパートナーと考えている」と語った。

AIを使う効果は、どこに顕著に表れるのか

 続いて田中上席研究員は、「現状のAIで何ができるのか、どのような効果があるのか」と問いかけた。

 佐藤氏は「ネット広告でターゲットを定めるときに、どういう層に対してどのような情報を送るのかを決める。通常は人間が仮説を立ててターゲティングする。しかしAIを使って、クリックなどのアクションを分析してシステム的にターゲティングをやってみた。最初の1カ月程度なら人間のほうが良い結果が出る。しかし長く運用するとシステムのほうが成績が良くなる」と、人間とAIの分析による結果の例を紹介した。

 長谷川氏は、自動車を例にしてAIの利点を挙げた。「自動運転のアルゴリズムを人間が組もうとすると、危険なシーンをすべて教えなくてはいけない。しかしあらゆるリスクを挙げて、アルゴリズムを作るのは不可能。ディープラーニングを使って、システムに学ばせることが効率的だ」という。

 岡田氏は小売り流通現場での効果を紹介した。「小売りでは、何人の顧客がどのような動きをして、何を手に取ってレジに並んだかが重要だが、コンバージョンレシオ(購買率)を取れないのが課題だった。そこでIoTを使って精査なデータを取得して解析すると、コンバージョンレシオが見られるようになる」といい、続けて「ただしフルオートメーションでやるならAIだけでもいいが、小売りでは人間の作業が多い。人間とAIを適材適所に使い分けるのが、実際に運用するうえではポイントになる」と注意点を含めて解説した。

 武田氏は「リーガルの分野では、AIによるコストメリットが大きい」と述べる。訴訟ではもともと大きな金額が動く。AIを活用して分析することで5分の1程度に抑えられることもあるという。

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AIビジネスで日本の強みを発揮するには?

 田中は「世界の強豪と戦ううえで負けないためには何が必要か」と聞いた。

 岡田氏は「創業以来グーグルやフェイスブックが持っていない情報を保有することを課題としてきた。Webで戦ったら勝てない。そこで流通小売り業界に目を付けた。店舗のセンサーから情報を持ってきてディープラーニングを活用している。この分野の情報は海外ベンダーが持っていない」と、独自情報の強みを挙げた。

 武田氏は「リーガルは大量のデータを人間が見る。それを軽減するために、リーガルのデータをAIで分析しようというサービスはアメリカにあった。だが、そこで得たアルゴリズムを他の分野に乗り出す例は聞いていない。当社は、ヘルスケアなど他の分野に進出している」とビジネス展開の広さの重要性について語った。

 佐藤氏は「技術はいずれコモディティ化する。AIもそうだろう。そのとき海外のITベンダーがやりたがらない部分をいかに手掛けるかがポイント。金融などは国の施策と連動するので、グローバルな企業は入りにくい要素がある。そういう業界のデータを取りに行くことで差異化ができる」と述べた。

 長谷川氏は「Chainerをオープンソースとして提供している。これはプラットフォームとして活用してほしいからだ。Chainerを利用してもらえば、データも蓄積されていく。プラットフォームとしてのポジションを確保することが重要だ」と語った。

 先駆者である4人には、未来のAIビジネスのビジョンが示された。AI、そしてディープラーニングのビジネスの本格的な利用はこれから始まる。