NECは2016年10月3日、電波の利用状況を計測してリアルタイムに可視化するシステムを開発したと発表した。イベント時や災害時に空きのある無線周波数を通信機器に臨時に割り当てるといった用途で使う。スマートフォン大の小型センサーを開発したことで設置台数が増え、無線周波数をきめ細かく計測できるようになったという。2020年に向けて実用化を進める。

周波数共用の全体図
周波数共用の全体図
(出所:NEC)
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 開発したシステムは小型の電波センサーと電波状況を可視化するソフトで構成する。テレビ放送や携帯電話など主要な無線システムで使う30MHzから3GHzの周波数から、計測したい周波数の電波のみを抽出、利用状況を計測して可視化する。これにより、空いている周波数を割り当てる運用ができるようになる。

 電波センサーの設置場所は専用の鉄塔に限定せず、街路灯やビル壁など様々な場所を選べるようにした。具体的には、アンテナで受信した電波から計測したい周波数の電波のみを抽出する「マイクロマシン応用可変フィルタ」を開発した。さらに、計測したい周波数を増幅して不要な周波数を低減する機能を1チップに集積した専用の受信ICチップ(広帯域受信CMOS IC)を開発。電波センサーのサイズを従来のデスクトップPC程度からスマートフォン並みに小型化した。

マイクロマシン応用可変フィルタ
マイクロマシン応用可変フィルタ
(出所:NEC)
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広帯域受信CMOS IC
広帯域受信CMOS IC
(出所:NEC)
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 さらに、観測したい無線周波数帯の近くに存在する複数の不要電波を除去する「アナログ・ヌルステアリング技術」を開発。これにより、強い電波を送る送信局のそばでも、微弱な電波を計測できるようにした。計測したい電波とは異なる方向から来る不要電波を100分の1に低減できるという。

 対象エリア全体で空き周波数を活用するには、電波センサーを設置した場所だけでなく、設置されていない場所での電波環境も計測する必要がある。そこでNECはセンサーが設置されていない場所の電波状況を自動的に推定して補間するソフトを開発した。これにより、高層ビルが密集する都市部など、十分な数のセンサーを設置しにくい場所でも電波状況を高精度に推定できるとしている。

 今回の研究成果は総務省の「第5世代移動通信システム実現に向けた研究開発~複数移動通信網の最適利用を実現する制御基盤技術に関する研究開発~」の活動の一環で生まれたもの。NECは同研究開発に2015年度から参画する。今後は計測できる周波数帯を30MHzから6GHzまで広げて、研究開発を進めていくとしている。