公正取引委員会からの排除措置命令の確定を受け会見する、JASRACの浅石道夫理事長(16日、東京・渋谷のJASRAC本部)
公正取引委員会からの排除措置命令の確定を受け会見する、JASRACの浅石道夫理事長(16日、東京・渋谷のJASRAC本部)
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 日本音楽著作権協会(JASRAC)は2016年9月16日、独占禁止法に基づく公正取引委員会からの排除措置命令の確定を受け記者会見を開催した。公取委に対する審判請求を9月9日付で取り下げた理由について、2009年の排除措置命令で求められていた「放送楽曲の全曲報告」「管理楽曲の利用割合に応じた著作権使用料の分配」がその後実現し、現時点で排除措置命令を受け入れても実務上の影響がほとんどないと判断したことなどを挙げた。

 そのうえでJASRACは、全曲報告のデータベースを基に放送分野の利用実績の明細を各権利者へ開示していることなどを挙げ、徴収・分配の透明性で競合する管理事業者との差異化を図る意向を示した。

全曲報告とシェア反映の分配方法、既に実現

 公取委の排除措置命令は2009年2月27日付。JASRACと各放送局とが締結している放送分野の利用許諾契約では、売上高の一定比率を支払うことでJASRACの管理楽曲を自由に使える「包括許諾」とし、分配の基になる利用状況は、全曲報告ではなく年数回のサンプリング調査の実績を採用していた。

 公取委は、こうしたJASRACの契約形態が競合事業者の管理楽曲の利用を妨げていると指摘。著作権使用料の算定式に各事業者の管理楽曲の利用割合を反映させるなどの改善策を求めた。

 これに対しJASRACは、「公取委の立入検査以前の2003年から放送業界との間で全曲報告に向けた協議を進めている」としたうえで、放送業界の協力が得られない限り、各事業者の利用割合の反映に必要な全曲報告のデータをJASRAC単独では用意できないと反発。排除措置命令の取り消しを求める審判を起こしていた。

 しかしその後、3つの点で環境が変化したという。第1に、排除措置命令が求めていた報告・分配の環境が順次整ってきたことだ。具体的には、JASRACへ利用楽曲を全曲報告する放送局が順次増え、現在では「一部を除き全曲報告が実現し、各事業者の利用割合の算定が可能になった」(JASRACの浅石道夫理事長)。

 また、JASRACと競合事業者2社(現在は合併しNexTone)、日本放送協会(NHK)、日本民間放送連盟(民放連)との間で2015年に「5者協議」が断続的に開かれ、各事業者の利用割合を反映した著作権使用料の算出方法で合意。既に2015年度の利用・徴収分から適用されている。

民事敗訴リスクも消え、役員入れ替えで決断

 第2に、並行して争われていた訴訟の終結だ。競合事業者のイーライセンス(現NexTone)はJASRACを相手取り2014年5月に損害賠償請求の民事訴訟を起こしていた。これも5者協議の合意を受け、NexToneが2016年2月に取り下げている。

 「(NexToneとの民事訴訟が続いている間に)公取委への審判請求を取り下げると、NexToneとの訴訟もほぼ自動的に敗訴になる可能性があり、取り下げるわけにいかなかった」(北田暢也常務理事)が、NexToneによる民事訴訟の取り下げにより敗訴リスクがなくなった。

 第3に、2016年6月のJASRACの役員改選で排除措置命令・審判請求当時の役員が大幅に入れ替わったことだ。「(当時から)ずっと戦い続けた役員に拳を下ろせというのも酷なものがあるが、排除措置命令が出た当時『審判請求しましょう』と言った役員で、今も残っているのは私1人。私の理事長としての責務、戦おうと言った人間の責務として、今(審判請求を)下ろして本来の業務に邁進しようと考えた」(浅石理事長)。

 この後は、公取委からJASRACに届く通知を受け、JASRACが2015年度から実施している現行の徴収・分配方法の説明文書を公取委に届け出て承認を求める。「現状のままでいいのか、何か追加すべきことがあるのか確認する」(北田常務理事)形になるが、「現在JASRACの方では、排除措置命令で出されている状況は解決していると理解している」(北田常務理事)という。

「個々の権利者に、放送での利用明細を開示している」

 今回の会見で浅石理事長は「JASRACはこれまでも競争状態のなかで鍛えられてきた。今後も他団体とのフェアな競争を戦い抜くことで一回りも二回りも大きくしたい」との意向を示した。

 会見のなかで浅石理事長は「JASRACは1939年の創立以来、仲介業務法に守られて1者独占だったと言われているが、実際には1949年3月から1974年まで『フォルスター事務所』という競合事業者が存在していた。同社は廃業前年の1973年でも著作権使用料ベースで約10%のシェアがあった。JASRACはそうした競争状態のなかで鍛えられてきた」と指摘する。

 競合するNexToneとの差異化については、Webサイトでの情報公開を通じた透明性の高さにあるとする。「個々の権利者に対し、どの曲がいつ、どの番組で使用されたかという明細をWebサイトで通知する仕組みを、2~3年前から運用している」(大橋健三常務理事)と明らかにした。

 そのうえで「報告のレベルアップ(全曲報告)が正確な分配につながる。複数の管理事業者が放送分野に参入するなか、JASRACは他の管理事業者より明確に知らしめているという点を、これまで以上に権利者にアピールしたい。そのことを通じ、一般消費者が抱く『どんぶり勘定』との見方を払拭していきたい」(大橋常務理事)とする。

 浅石理事長も「一般消費者に対して、個々の権利者への分配額はとても言えないが、総体の信託財産についてはしっかり財務諸表を出し、次年度の事業計画や予算もWebで全て開示している。管理業務にかかる経費も、差額(予算に対する剰余金)が出たら次年度に全て分配し、JASRACの懐には1円たりとも残さない。その経費を減らす努力もしており、管理手数料も一部だが下げ続けている。役員報酬も、個別ではないが総額で公開している」と述べ、透明性の確保に努めていることをアピールした。

■変更履歴
本文後ろから4段落目で、かつて存在していた音楽著作権管理団体について「ホルスター事務所」と記述していましたが、正しくは「フォルスター事務所」でした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。 [2016/09/20 11:20]