国際送金サービスのユニコーン企業(推定企業評価額が10億ドルを超えるスタートアップ)英トランスファーワイズは2016年9月7日、日本国内でのサービスを開始したと発表した。銀行が手掛ける既存サービスに比べて平均で3分の1という安価な手数料と、手続きをオンラインで完結できる利便性が売りだ(写真1)。

写真1●英トランスファーワイズのターベット・ヒンリクスCEO(左)とトランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表取締役(右)
写真1●英トランスファーワイズのターベット・ヒンリクスCEO(左)とトランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表取締役(右)
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 トランスファーワイズが送金手数料を安価に設定できる秘訣はこうだ。例えば、日本から米国に現地通貨(米ドル)で送金したい人と、米国から日本に現地通貨(日本円)で送金したい人をマッチング。トランスファーワイズはそれぞれから各国内に設けた同社の口座で資金を受け取る。その上で、ユーザーの希望する送金先に国内送金する。資金が国境を越えることはなく、国内送金によって国際送金需要を満たすわけだ。

 具体的な手順としては、まず日本のユーザーはトランスファーワイズに口座を開設する。本人確認などの認証作業が完了すると、スマホアプリなどで送金指示を出せるようになる。実際に送金指示を出した後は、同社名義の邦銀口座(現在は三菱東京UFJ銀行、今後は静岡銀行も追加)に指定金額を振り込む。

 トランスファーワイズは振込確認後、送金先の国に開設してある同社名義の口座から国内送金を実施。着金すると、ユーザーに取引完了のメールを送る。現地通貨が不足する場合は、銀行による海外送金の仕組みを利用することもあるが、「これはカーテンの後ろの話。ユーザーの目には区別はつかない」と、ターベット・ヒンリクスCEO(最高経営責任者)は説明する(写真2)。

写真2●英トランスファーワイズのターベット・ヒンリクスCEO(最高経営責任者)
写真2●英トランスファーワイズのターベット・ヒンリクスCEO(最高経営責任者)
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 トランスファーワイズの送金サービスは一部通貨を除き、送金手数料を原則1%としている。さらに、全ての手続きをスマホやPCで完結できる手軽さも強みだ。2016年2月には日本から海外に向けた送金サービスを英語で提供開始しており、今回、正式に日本語でのサービスをスタートさせた格好だ。

 「銀行はサービスの近代化を怠ってきた」(ヒンリクスCEO)。トランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表取締役によると、銀行の海外送金サービスは3~10%という高い手数料が掛かる上、中継銀行(コルレス銀行)や被仕向銀行による手数料が上乗せされるなど透明性に欠けると指摘する(写真3)。そのためユーザーは、事前に全体の手数料を把握することが難しい。窓口に出向いて書類を作成しなければならないなど、不便な点が少なくないことも問題とする。

写真3●トランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表取締役
写真3●トランスファーワイズ・ジャパンの越智一真代表取締役
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 トランスファーワイズは2010年設立のスタートアップ企業。利用者数は全世界で100万人を超え、月間の取扱送金額は2016年9月現在で約1100億円に上る。1件当たりの送金額は20~30万円規模が主流である。38の通貨を扱っており、55カ国への送金が可能だ。

 銀行に取って代わる存在として注目を集めるトランスファーワイズだが、「金融機関とは競合しつつも、協力する関係を世界中で保っている」(ヒンリクスCEO)という。エストニアのLHV銀行やドイツの銀行であるナンバー26とは協業関係を構築しており、トランスファーワイズのプラットフォームを提供。銀行の顧客はモバイルバンキングアプリを使って、同社の送金サービスを利用することができる。