写真●福岡で開催されたiCDの合同情報交換会の模様
写真●福岡で開催されたiCDの合同情報交換会の模様
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 IT人材が担う役割や仕事を体系化したiCD(i コンピテンシ ディクショナリ)を、ITベンダーの経営改革やIT人材育成に活かそうとする動きが広まっている。福岡県情報サービス産業協会は2016年9月7日、iCDの活用を推進する合同情報交換会を開催した。

 情報交換会に参加したのは、TIS西日本、オフィスメーション、ヒューマンテクノシステムなど、九州に本社を置く中堅・中小ITベンダー16社だ。各社の社長や役員、管理職クラスが集まり、経営改革や人材育成に関する課題やiCDの導入体制・活用方法などについて意見を交わした(写真)。

 iCDの特徴は、「スキル」ではなく「タスク(仕事)」でIT人材の能力や業務を体系化している点だ。例えば、「システム企画立案」という仕事は、「事業環境、業務環境の情報を収集し、事業課題を分析する」「現行システムの状況を調査し、現行システムの稼働状況を把握する」「システム化計画工程のプロジェクト計画書案を作成する」といった約50のタスクとして示される。

 「誰がどんな仕事をしているのか、どこまでできるのか(補助者が必要か、一人でできるか、指導できるか)を調べれば、自社の業務遂行能力を見える化できる。事業計画と比較すれば、どんな人材が不足しているかも把握できるし、人材育成の指針も客観的に示せる」と、IPA HRDイニシアティブセンターの遠藤修グループリーダーは説明する。

 例えば、TIS西日本では約150人の従業員全員に対してiCDをベースにした能力診断を行っている。データを分析したところ、「人材の見える化だけでなく、意外な発見があった。当初は想定していなかった事業分野の経験者や業務遂行能力を備えた人材が社内にいることが分かった」(経営管理本部本部長の渋谷智之執行役員)。診断に必要な一人4時間分の人件費を管理本部が持つことで、部門損益を悪化させない工夫もしている。

 長崎県に本社を置くオフィスメーションでは、iCDを使った能力診断の結果を全社員に公開している。「従業員が自身のスキルを客観視できるようになり、切磋琢磨する風土が生まれてきた。率先して新しい仕事に取り組むようにもなった」(石井新吾常務取締役)。福岡市にあるヒューマンテクノシステムでは、経営方針や事業方針を説明する際、重点分野をiCDに記載された項目(タスク)に落とし込んでいる。これを全員で読み合わせ、会社が向かうべき方向性や強化すべきスキルなどの認識を全社員で共有している。

 今回の情報交換会では、これらのほかにも数多くのiCDの活用事例が紹介された。なお、iCDの詳細を知るには、IPAが今年6月に開設した専門サイトが参考になる(関連サイト)。能力診断などで使えるタスクディクショナリーやiCD活用企業の事例集などを公開している。