日本取引所グループ(JPX)は2016年8月30日、仮想通貨の技術基盤である「ブロックチェーン/分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」を証券業務に応用する実証実験の調査レポートを公開した(JPXワーキング・ペーパーのWebサイト)。

 評価したDLTについて、いくつかの課題はあるものの「金融ビジネスの構造を大きく変革する可能性を持つ技術であることが分かった」としている。

 実証実験は、2016年4月~6月中に実施した。Linux Foundationで開発が進むDLTのオープンソースソフト「Hyperledger」を使った実験を、日本IBMと実施。野村総合研究所およびカレンシーポートと共同で、イーサリアム(Ethereum)系のDLT規格を使った実験を行った。

 この実験では、証券市場における発行・取引・清算・決済・株主管理といったプロセスを、各DLTの台帳機能およびスマートコントラクト機能で実施できるかについて、技術検証を行った。国内金融機関6社(SBI証券、証券保管振替機構、野村証券、マネックス証券、みずほ証券、三菱東京UFJ銀行)も実験に参加した。

 証券取引の各業務を検証した結果、売り注文と買い注文をマッチングさせる取引(照合)業務については、注文を集中処理するほど最適価格を見付けやすい、という業務の特性から「分散ネットワーク上での処理というDLTのアーキテクチャーは基本的に親和性が低い」とした。ただし、相対取引では「競争売買の要素が少ないため、DLTで処理する事も可能」とした。

 一方で、取引後の清算・決済については「DLTによる分散処理は可用性をはじめとした便益をもたらす」とし、「証券市場のポストトレード分野においてDLTを活用することにより、将来的に既存の業務フローの大幅な効率化が達成される可能性がある」と結論づけた。

 一方で、適用の障害となる懸念材料も見つかったという。債券の金利支払いやデリバティブの満期処理など、特定の時間に発生するイベントの処理では、各ノードのシステム時刻の差により、実行のタイミングに差異が発生し得る。また、オプションの権利行使などで外部データを取得する際も、各ノードが独自にデータを取得すると、ノード間でデータの整合性が保てなくなる懸念がある。

 DLTの処理性能も、現状では適用の障害になり得る。同レポートでは、先進国の上場株式市場に求められるポストトレード処理については「秒間数千~数万件の処理性能が望ましい」とした上で、実験したDLTでは「数十~百件程度のスループット性能が上限となった」という。特にHyperledgerでは、スマートコントラクトを1件ずつ直列実行していることなどがボトルネックになっており、改善の余地が残るという。

 コスト面では、アプリケーション開発においては差異が認められない一方、ハードウエアや基盤ソフトウエア、保守のコストについては、複数ノードでの冗長構成を低コストで実現できることから「削減の可能性あり」とした。