従来の方式との比較
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電波出力の自動設定
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 アライドテレシスと京都大学大学院情報学研究科 守倉研究室は2016年8月25日、サイトサーベイを行うことなく、無線LANアクセスポイントを置くだけで最適な無線LANサービスを構築する技術「Network AI」を発表した。それぞれのアクセスポイントが把握した電波状況を基に、電波出力やチャネルを自動制御する。アライドテレシスは、この技術を搭載した製品の提供を2017年2~3月をメドに開始する。

 Network AIは、同社のネットワーク管理ソフトウエア「Vista Manager」とアクセスポイント「TQシリーズ」を組み合わせて利用する。ソフトウエアやファームウエアのバージョンアップで対応するため、こうした製品をすでに使っているユーザーもNetwork AIを利用できるようになる。アライドテレシスは、2017年からこの機能を提供することで、2022年には2015年の5倍の台数のアクセスポイントを出荷することを目標にしている。

 Network AIのキモとなる、電波出力とチャネルの自動設定技術は、京大守倉研究室がゲーム理論に基づいて開発した(この技術に関する論文)。

 各アクセスポイントの通信品質は他のアクセスポイントのチャネルにも依存するが、変更できるのは自身のチャネルだけだ。こうした問題はゲーム理論で扱うのが向いているという。経済学におけるゲーム理論は「各国の利益は、自国だけでなく他国の行動に依存するが、変更できるのは自国の行動のみ。このとき、どのような行動を採るべきか」というもの。この知見を無線LANに応用した。

 Network AIでは、まず電波出力を自律的に設定する。各アクセスポイントが少なくとも他の一つのアクセスポイントのカバーエリア内に入るように、電波出力を低減していく。基本的にはアクセスポイントの電波観測情報だけに基づいて設定するため、全体を把握するためのVista Managerのようなソフトウエアは本来は不要だ。ただし、自律的な制御だけでは提供エリアの端にカバーできない範囲(カバレッジホール)が生じる可能性があるため、そうした個所はVista Managerのようなソフトウエアで対処する。

 また、各アクセスポイントの電波観測情報を使っているため、アクセスポイント間の通信に影響しない場所に障害物があると、その障害物の付近にカバレッジホールが生じる可能性がある。そうした場合を想定して、それぞれのアクセスポイントのカバーエリアは少し余裕を持たせて広めに取るようにしているという。

 次にチャネルを割り当てる。オーバーラップ面積が最も小さくなるチャネルを各アクセスポイントが順次選択していく。このチャネル切り替えが有限回数で収束することを数学的に証明し、国際学会で発表したという。