写真●日立製作所ICT事業統括本部Senior Technology Evangelistの渡邉友範氏
写真●日立製作所ICT事業統括本部Senior Technology Evangelistの渡邉友範氏
(撮影:井上裕康)
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 「デジタルシフトは、企業価値を向上させるアプローチの一つだ」。日立製作所ICT事業統括本部Senior Technology Evangelistの渡邉友範氏は2016年7月6日、「IT Japan 2016」で講演し、日立が支援する企業のデジタルシフトについて、事例を交えて語った(写真)。

 渡邉氏は講演の冒頭、「デジタルシフトの本質をイメージしてもらうため」と、1本の動画を再生してみせた。内容は、日立製作所が人工知能やロボットの研究のために行った実験で、加速度センサーを搭載したロボットが機械学習だけでブランコを漕げるようにする様子だ。

 ロボットは、最初やみくもに足を動かしているだけだが、それを繰り返すうち、だんだんとブランコが漕げるようになってくる。さらに続けると後ろに振るときにもブランコを蹴り上げるような動作を身につけ、人間が漕ぐより高く漕げるようになった。人間は、前にスイングするときの体重移動で漕ぐが、後ろにスイングするときに後ろを蹴り上げるような動作ができる人は少ない。

 「デジタルシフトとは、このロボットの動画のようにわずかな違いの動作(施策)を何度も繰り返して学習していく過程と同じ。小さい施策が、やがて大きなイノベーションとなっていく」と渡邉氏は話す。

デジタルシフトで指標化しにくい作業を定量化

 また渡邉氏は、企業の業務を定型作業、非定型作業、知的作業に分類。このうち定型作業は、成果、プロセスともに定量的な計測がしやすい。「例えば組み立て作業ならば、成果は生産量で評価できるし、プロセスは作業時間で評価できる」と説明する。

 しかし、「販売・マーケティング活動のような非定型作業となると、成果は売上などで評価できても、プロセスの定量評価は難しい。ベストプラクティスやユースケースに頼ることになる。あるいはベテランの勘だ」(渡邉氏)。

 知的作業は、新製品の開発などのように、成果もプロセスもそもそも評価指標が存在しないことが少なくない。これらの部分は経験と勘と地道な努力をするしかない、という。

 渡邉氏はデジタルシフトについて、「こうした部分にデータ解析、シミュレーション、人工知能といったテクノロジーを活用する」とする。さまざまなアイデアもデジタルの力によって、躊躇することなく試し、細かいトライ・アンド・エラーを繰り返すことができる。それにかかる時間やコストが、ずっと短く・安くなる。「つまり、経験や勘に頼らなければならなかった部分をデジタル化することで、効率を上げて企業価値向上につなげる」、と渡邉氏は指摘する。

 次に渡邉氏は、デジタルシフトによって改善や効果を上げた事例をいくつか紹介した。

 最初は自社の生産現場で、リードタイムを短縮する生産計画を自動化したという事例。2000種類もの製品を作るラインにおいて、人間が状況を把握して生産計画を見直すのに3時間かかっていた現場を、バーコード、RFID等でラインや品番の状況をリアルアイムで把握し、問題箇所の検出を自動化したという。現場の制約条件を加味したシミュレーションを行い、最適な生産計画を立案。その時間は5分にまで短縮された。

 「新日鐵住金と日立の協業では、生産計画を決定するプロセスに、機械学習の結果について熟練技術者がチェックする工程を加え、学習効果にルール化しにくいノウハウを組み込んだ」(渡邉氏)。