写真●一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授
写真●一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授
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 一橋大学大学院国際企業戦略研究科の楠木建教授は2016年7月6日、「IT Japan 2016」(主催:日経BP社)において「クオリティ企業の条件:長期利益の源泉を考える」と題し特別講演を実施した(写真)。このなかで楠木教授は、成熟化した日本においては自らの独自性や強みをじっくり育てる品質重視の「クオリティ企業」(厳密には企業内の事業)が増加すると指摘。日本企業が優れたクオリティ企業として存在感を発揮するには、自分たちの好きなことをとことん事業として究めたいという思いがカギを握ると語った。

 楠木教授はまず、ファーストリテイリングの柳井正氏が2007年に示した経営方針と、松下電器産業(現パナソニック)の松下幸之助氏が1965年に示した経営方針が、いずれも「儲ける」の一言だけであることを披露。企業の経営戦略のゴールは長期利益にあると指摘した。

 そのうえで、企業内の事業の稼ぐ力をひもとくと、周囲にある収益機会を取り込んで成長していく「オポチュニティ企業」と、自社内にある事業の質を高めていく「クオリティ企業」とに分けられると語る。

 オポチュニティ企業は、近年の中国のように経済成長が著しい「青春期」の市場でよく見られること、事業ポートフォリオをどう組むかが成否を分けること、事業規模が成長することで利益も付いてくる構造にあり、売上高をいかに増やすかが重要であること、などと楠木教授は位置づける。

 日本では、岩崎彌太郎氏や渋沢栄一氏が明治期に多数の企業を次々に設立していったことを挙げ、オポチュニティ経営者であるとする。成熟した現代の日本におけるオポチュニティ企業は少ないものの、「孫正義氏率いるソフトバンクはオポチュニティ企業だ。孫氏が台湾・鴻海精密工業の郭台銘董事長や中国アリババ集団の馬雲会長と仲が良いのも、オポチュニティ経営者同士で馬が合うからだろう」と分析する。

優れたクオリティ企業には優れた戦略ストーリー

 一方のクオリティ企業は、現代の日本のような成熟経済において主役となること、ここでいう「クオリティ」は提供する財・サービスといったアウトプットだけでなく、その開発プロセスを含めた総体としてのクオリティであること、などと位置づける。

 そのうえで楠木教授は、「優れたクオリティ企業は、優れた戦略ストーリーが独自の価値を作ることで利益を生み出している」と指摘する。