写真●野村ホールディングスの参事Co-CIOで、野村証券の経営役である橋本伊知郎氏
写真●野村ホールディングスの参事Co-CIOで、野村証券の経営役である橋本伊知郎氏
(写真:井上裕康)
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 「8年前の2008年7月7日の会議で、レガシーからの脱却へとサイが振られた。この会議で、新しいメインフレームへの単純移行は今回が最後だ、と明言した」。野村ホールディングス参事Co-CIOで、野村証券で経営役を務める橋本伊知郎氏(写真)は2016年7月6日、「IT Japan 2016」(日経BP社主催)で講演し、野村証券が8年にわたって取り組んできたシステム刷新の道程を解説した。「IT Japan Award 2016」のグランプリを受賞した事例である。

 野村証券は、メインフレームを中心とした旧来型システムからの脱出を図った。旧システムは業務部門の要求を汲み取る形で機能をパッチワークのように積み重ねて成長させてきたシステムである。「かゆいところに手が届くリッチなシステムだが、スパゲッティ状態で肥大化していた」(橋本氏)。

 メインフレームの老朽化という課題を抱えながら同社がシステム刷新の検討を開始したのは2008年5月のこと。当時の決定事項として橋本氏は、自身が書いた2008年7月7日の議事録を見せて説明した。会議では、新しいメインフレームへと単純移行することが決まった。ただし、単純移行はそれが最後であり、次回はシステムの構造を変えることがうたわれていた。

 システム刷新のハイライトは、2010年7月から2013年1月の2年半である。それまでメインフレーム上で動作させていた自前のシステムを、野村総合研究所(NRI)が提供している証券会社向けのバックオフィス業務の共同利用型システム「THE STAR」に置き換えた。導入に当たっては、カスタマイズ開発が避けられないもの、業務をシステムに合わせるもの、業務をスリム化するもの、などを切り分けた。

自前開発では10年以上かかると判断

 2008年の会議からSTARの導入を決定した2010年7月までには2年間を要している。この過程では、証券業務に強いメンバーやITに強いメンバー、各部署を経験してきたメンバーなど、経験が異なる様々なメンバーが一緒になって試行錯誤を繰り返したという。

 「半年の議論を経て、自前でシステムを開発するという選択をあきらめた。最低でも10年以上の構築期間が必要だったからだ」(橋本氏)。外部のソフトの利用が必須であり、事実上STARしかないと判断した。STARの導入を決めた後は、「いかにIT部門に本気になって取り組んでもらうかがカギだった」(橋本氏)。

 橋本氏は、野村証券がSTARを利用することを「巨象が乗り合いバスに乗る」と表現する。確実に乗り換えるために、二つのアプローチをとった。一つは、ノックアウトファクター(致命的な要因)がないこと。もう一つは、業務をシステムに合わせることについて経営層に了解を得ることだ。この二つをクリアして2010年7月に導入を決定した。

 導入時期は2013年1月に設定。「3年以内にできることだけをITプロジェクトとするべきだ、というポリシーにのっとった」(橋本氏)。