写真●岩見沢市の松野哲市長
写真●岩見沢市の松野哲市長
(撮影:渡辺可緒理)
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 ICTの最新トレンドにフォーカスする総合展「ITpro EXPO 2016 in 札幌」(主催:日経BP社)が2016年6月30日から7月1日にかけて、札幌コンベンションセンター(札幌市白石区)で開かれた。2日目の7月1日午前10時からのキーノートスピーチでは、北海道岩見沢市の松野哲市長と北海道大学の野口伸教授が、岩見沢市で行っているスマート農業の取り組みについて講演した。

 札幌市から東に40kmに位置する岩見沢市は人口約8万4000人。かつては石炭産業、近年は農業を中心産業として発展してきた。水稲の作付面積/収穫量は北海道最大で、ほかにも小麦、大豆、白菜、玉ねぎなどを主に生産している。

 ほかの地方都市と同様に、岩見沢市も人口減少や少子高齢化といった課題を抱えている。こうした課題が農業に与える影響は大きく、農家は毎年60戸前後の減少が続き、2000年から2015年の間に半減した。農業従事者のうち65歳以上が占める高齢化率は36.5%に達している。耕作放棄地は増えていないものの、1戸当たりの経営面積は17.1haまで増加している。このまま就業人口の減少、高齢化、耕作面積の拡大が続くと、「岩見沢市の農業の維持、継続が限界に達するという危機感がある」(松野市長)という。

 1990年に全国の自治体に先駆けて総延長196kmに及ぶ市営の光ファイバー網を整備するなど、早くからICTの利活用に取り組んできた岩見沢市では、農業の課題解決にもICTが活用できると考え、さまざまな取り組みを進めてきた。2002年には市内13カ所に気象観測装置を設置し、作付や収穫の参考となる各種予測情報を50mメッシュで提供できるようにした。2000年には市内3カ所にGPS補正基地局を設置し、耕作機械の運用に必要となる誤差3cm程度の高精度位置情報を、市内のほぼ全域で利用できるようになった。また、市内の農業従事者が100名以上参加する「いわみざわ地域ICT農業利活用研究会」と連携することで、現場ニーズを吸い上げる環境も構築した。

 岩見沢市では未来につなぐ強い農業を実現することを目標に、地方創生加速化交付金を使って、ICT農業の普及促進を含めたICT活用形総合戦略推進事業を進めていくという。

写真●北海道大学の野口伸教授
写真●北海道大学の野口伸教授
(撮影:渡辺可緒理)
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 続いて北海道大学の野口伸教授が登壇し、岩見沢市で実証実験を行っているロボット農機を用いたスマート農業への取り組みについて説明した。

 ロボット農機を用いたスマート農業は、4つの段階に分けられる。有人の農機のハンドル操作を自動で行う「オートステアリング」、有人の農機が近くの無人機の安全確保をしながら作業を進める「有人無人協調作業システム」、無人の農機を近くの人間が監視しながら作業する「無人作業システム」、無人の農機を離れた場所から遠隔監視して作業する「遠隔監視システム」の4つだ。

 北海道大学と岩見沢市は、メーカーなどと共同で「岩見沢地区ロボット技術実証コンソーシアム」を立ち上げ、オートステアリング、有人無人協調作業システム、無人作業システムに関してそれぞれ実験を行った。このうち無人作業システムの実験では、田植え前に水を入れて土をかきならす「代かき」作業や夜間耕うん作業の精度を、プロの農家とロボット農機で比較した。いずれもプロの農家が11~15cm程度の精度で行っているこうした作業を、ロボット農機は3cm前後の精度で作業できる結果となり、「農家の人からぜひ使いたいという声があった」(野口教授)という。

 野口教授は、スマート農業で目指すゴールについて、「経験と勘で行ってきた農業を、データに基づく農業に変えることで、誰でも農業ができるようにしたい」と説明した。