写真●日本ガイシ 取締役常務執行役員エレクトロニクス事業本部長の石川修平氏
写真●日本ガイシ 取締役常務執行役員エレクトロニクス事業本部長の石川修平氏
(撮影:酒井 直樹)
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 「ビッグデータを活用する際に、分析結果をうのみにしても効果は薄い。結果を自分たちなりに解釈する姿勢が欠かせない」。2016年6月17日、ICTの総合展「ITpro EXPO 2016 in 名古屋」(主催:日経BP社)のKEYNOTEを務めた日本ガイシ 取締役常務執行役員エレクトロニクス事業本部長の石川修平氏(写真)は、自らの経験を基にこう強調した。

 石川氏は「日本ガイシのビッグデータ活用への挑戦」というタイトルの講演で、金属事業部がベリリウム銅の生産分野で取り組んでいるビッグデータ活用の状況や成果・気づきを紹介した。

既に高い収率が0.5%向上

 ベリリウム銅は銅合金の一つで、高い強度と導電性を兼ね備えているのが特徴。自動車やスマートフォンなどで利用されている。ただ、「特性が高い分、コストは高級素材の3倍から5倍。設計者は『いかにベリリウム銅を使わずに済ますか』に苦慮しており、設計変更時の切り替えの対象になりやすい」(石川氏)。

 日本ガイシは設備の改良や生産時の設定の見直しなどによって、ベリリウム銅の収率(製品完成重量を原料投入重量で割ったもの)改善を進めてきた。ところが「2005年から2010年までは効果が上がったものの、それ以降は頭打ちになり、計画とのギャップが生じるようになった」(石川氏)。

 そこで注目したのがビッグデータ解析だった。ベリリウム銅の生産は、原料を炉に入れて溶かし、金属のかたまりを作る。そのかたまりに対して熱処理や圧延を繰り返して、「髪の毛の太さよりも小さい」(石川氏)幅0.05mmほどの厚さのコイルを作成する、という流れで進める。

 同社はまず、原料を溶かして固める溶解鋳造工程でのビッグデータ活用を試みた。この工程は「原料の成分や配合比、溶解炉の温度や時間、角度など工程を左右する要因が非常に多く、制御が難しい。どの会社も苦労している」(石川氏)。同社は数年前から自動化に向け「データを取る仕組みが既にあった」(同)。このため、ビッグデータ活用を試すには向いていると判断した。

 約100の因子を対象に1500ロット分のビッグデータ分析を試みたところ、結果は上々。収率が0.5%向上した。「既に収率が高い状態にあるなか、0.5%というのは非常に大きな効果」と石川氏は評価する。