写真1●米ボックスで会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるアーロン・レヴィ氏
写真1●米ボックスで会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるアーロン・レヴィ氏
(撮影:陶山 勉)
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 「最先端のテクノロジーを適用し続けること。さもなくば、ディスラプター(破壊者)につけいる隙を与えてしまう」。2016年6月7日、日経FinTechが東京都内で開催した、「Exclusive Seminar 02」に登壇した米ボックスで会長兼CEO(最高経営責任者)を務めるアーロン・レヴィ氏はこう主張した(写真1)。

 レヴィ氏は、「金融機関とクラウド」というテーマで講演。あらゆる業界、特に非テクノロジー業界にデジタル化の波が押し寄せ、破壊的イノベーションを持ち込むディスラプターと呼ばれる存在が各業界を席巻する世界的なトレンドを指摘した。その上で、既存の大手企業はいかに振る舞うべきかを説いた。

 レヴィ氏は、2005年に米ボックスを共同創業し、企業向けクラウドストレージサービス「Box」を世に送り出した人物だ。Boxは、6万社が利用するサービスに成長し、米ゴールドマン・サックスや米モルガン・スタンレー、米AIGといった大手金融機関も採用する。

元祖FinTech企業も破壊される側に

 レヴィ氏が注目するのが、FinTechが盛り上がる金融業界だ。同氏が象徴的な事例として紹介するのが、アイルランド出身の兄弟が設立した米ストライプ。ネット決済を手掛けるスタートアップ企業である。「兄弟は、米ペイパルの煩雑な取り引きをシンプルにしようとしている」(レヴィ氏)。FinTechの元祖とも言うべきペイパルが、既にディスラプト(破壊)される側に回っているというわけだ。ペイパルの創業は1998年で、設立から20年に満たない。

 「2010年に、ストライプは最先端のテクノロジーとペイパルが採用するテクノロジーとの間にギャップがあることに気づいたんだ」。レヴィ氏はこう分析する。先端技術を使えば、よりシンプルなユーザー体験(UX)を提供でき、手数料も抑えられる。Webサイト向けの決済サービス分野で改善の余地を与えてしまっていたことが、ペイパルがストライプの参入を許した理由だという。

 ペイパルも反転攻勢するが、「ストライプの方がモダンなアーキテクチャを採用していて、アプリも近代的。オンライン決済を扱うのに有利なポジションにいる」と、レヴィ氏はみる。

 こうした現象は、決して金融業界だけに起きているのではない。タクシー業界の米ウーバーテクノロジーズ、ホテル業界の米エアビーアンドビー、自動車業界の米テスラモーターズ、放送業界の米ネットフリックスを代表に、既存企業を追い込もうとしている。「今まではスタートアップ企業は、他のテクノロジー企業を追いやる存在と思われてきた。今は違う。非テクノロジー企業に対しても、ディスラプションを仕掛けられることが明白になった」と語る(写真2)。

写真2●日経FinTechが開催した「Exclusive Seminar 02」のもよう
写真2●日経FinTechが開催した「Exclusive Seminar 02」のもよう
(撮影:陶山 勉)
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