写真●千趣会、経営企画本部情報システム部の池本修幸氏
写真●千趣会、経営企画本部情報システム部の池本修幸氏
(撮影:渡辺 慎一郎=スタジオキャスパー)
[画像のクリックで拡大表示]

 通販カタログ事業「ベルメゾン」を手掛ける千趣会は、新規システムをクラウドに構築する“クラウドファースト”を基本方針としている。2016年6月3日、同社で情報システム部門に在籍する池本修幸氏(写真)が「AWS Summit Tokyo 2016」に登壇。ユーザー企業である同社がプラットフォームの第一の選択としてAWS(アマゾンウェブサービス)を活用するまでになった道のりを解説し、これからAWSを使うユーザーに向けてアドバイスした。

 池本氏は、運用してみて分かったAWSについての体験を、いくつか説明した。まず、必要なときに必要なリソースを即座に調達できるというクラウドのメリットを経験した、と話す。「新規システムを構築する際にはテスト環境の構築が必要だが、AWSならオンプレミスよりも簡単に素早く調達できる。AMIイメージでデプロイするとさらに時間を短縮できる」(池本氏)。

 頻度は高くないが、クラウドにおいてもハードウエア障害が発生することも経験したという。障害発生時は、クラウドならではの対応として「原因追及よりもサービス復旧を優先することが大切」(池本氏)。さらに、事前にアナウンスはあるものの、計画メンテナンスによるサービスの中断があることもあったという。

 障害やメンテナンス時にサービスを止めずに継続したい場合は、あらかじめ冗長構成などを考えておくことが大切。「RTO(目標復旧時間)とRPO(目標復旧地点)の観点で社内で議論しておく必要がある」(池本氏)。

 池本氏は、これからAWSを使おうと検討している人に向けたアドバイスを五つ挙げた。(1)スモールスタートできるので、まずは使ってみる。(2)トライアル時に、サポートのレベルを確認しておく。(3)有償サポートはなるべく契約する。(4)障害は起こるものと思っておき、RTO/RPOを考えておく。(5)新サービスがどんどん出るので、AWSの担当者と仲良くしておく。

有償トレーニングを上手に活用

 千趣会がクラウドファーストに至るまでの道のりはゆっくりだった。最初は日本IBMのクラウドサービス「IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス」(MCCS)を2010年ころに使い始めた。2011年にメールサーバーを「Google Apps」に移行した。AWSを使い始めたのは2013年のこと。現在は、IBMのクラウドをプライベートクラウド用、AWSをパブリッククラウド用という形で使い分けている。

 情報システム部門の体制は、開発部隊とインフラ部隊が半々。インフラ部隊は、その多くが社外のエンジニアだった。こうした状況の下、AWSに取り組むハードルは高かった。第一に、自分たちに知識がなかった。第二に、付き合いのあるSIベンダーもAWSを使ってシステムを構築した経験がなかった。そこで、SIベンダーに頼らずに自分たちでやろうと取り組んだ。

 AWSへの取り組みでまずやったことは、AWSの窓口にアプローチしたことである。担当者に相談して、AWSの概要を確認した。次にやったことは、AWSの研修プログラムを活用したことである。1日間の有償トレーニング「Amazon Web Services実践入門1」を受講して、AWSの基礎を身に付けた。次に、AWSの無料使用枠を活用し、実際に使ってみた。

 AWSの基礎を身に付けてから、Amazon EC2/Amazon S3/Amazon Elastic Block Store(EBS)など、オンプレミス環境をそのまま移行する際に使えそうなサービスから使っていった。分からないことはWebサイトで調査し、実際に試しながら進めた。AWSを活用していくうちに、運用管理面での課題も見えてきた。このため、あらためてトレーニングを受講した(図1)。

図1●AWSの有償トレーニングの概要
図1●AWSの有償トレーニングの概要
(出所:千趣会)
[画像のクリックで拡大表示]

今後は運用自動化にチャレンジ

 千趣会の現在のAWS環境は、図2の通り。AWSとの間を専用線で接続するAWS Direct Connectと、仮想プライベートクラウドのAmazon VPCを使い、AWSをプライベート空間として使っている。社内リソースの延長線上にAWSを位置付けることで、柔軟に社内リソースを確保できるようにした。

図2●千趣会の現在のAWS環境
図2●千趣会の現在のAWS環境
(出所:千趣会)
[画像のクリックで拡大表示]

 基幹システム連携が必要なシステムもAWS上に置いているので、基幹システムを置いたデータセンターとAWSとの間もAWS Direct Connectで接続している。二つのAWSクラウド間はAWS VPC Peeringで接続している。

 今後の展望として池本氏は、「新しい機能がどんどん追加されるので、それらを試すことが必要。そのためには自分たちがレベルアップしていかなければならない」と抱負を語る。「AWS 認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト」の試験にもチャレンジしたいという。

 システム面では、まだ標準化と自動化が実現できていないという。「運用の自動化で管理コストを削減したい」(池本氏)。